前世戦士の映画日誌

前世が戦士らしい女が映画を観て色々吐き出します 生態日誌です

『銀河ヒッチハイク・ガイド』さようなら、と言われる程度の人類である私たち

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皆さん、衆院議員選挙、行かれましたか?
私は誰に憚ることなく権利を振りかざせる選挙が大好きなので、行って参りました。選挙用紙に候補者名を書く時のあの快感、いいですよね。
思惑通りの結果になれば「選んでやったんだから働けや」と思い、選んでない相手が当選すれば「仕事ぶりで俺様を納得させてみせやがれ」と思う。
一度でいいから、選挙用紙を振りかざし、足元に候補者をひざまづかせてみたい(権利の間違った使い方)。
政治家なんて国民の召し使いだと、田中芳樹は『創竜伝*1で書いていた。黒澤明は『七人の侍*2で、結局勝つのは農民(侍ではない)と言っていた。
そういうコンテンツにまみれて育ってきたので、つい思う。最近どうした日本よ。

そういう人間なので選挙結果にはモヤモヤしております。
が、実を言えば私の国家というものに対する考え方は右の左の保守のリベラルの、ましてや宗教のといった主義主張の斜め上にあったりして。
そうなった一因は、若い頃SF小説漬け(なぜかSF映画にハマったわけではない)だったことにあります。この映画の原作も、その頃出会いました。

宇宙のバイパス工事のために地球が消滅。その寸前、フツーの英国人アーサーは、親友のベテルギウス星人デントとともに宇宙をヒッチハイクする旅に出て、2つの頭を持つ躁病気質の元銀河大統領ザフォドの宇宙船へ。彼らは「人生、宇宙、すべてについての答」を知るのだが……。原作はモンティ・パイソンの脚本も書いたダグラス・アダムスが、自作ラジオドラマを小説化したSFコメディ。監督は音楽クリップ出身のガース・ジェニングス。

2005年製作/109分/アメリ
原題:The Hitchhiker's Guide to the Galaxy
配給:ブエナビスタ

(映画.comより)

このブログではいつも映画.comから解説をお借りしているのですが、またえらくあっさりした解説ですよね。それもそのはず、解説したりあらすじ説明したりしようもないのがこの映画。
原作の『銀河ヒッチハイク・ガイド』にいたっては「……元銀河大統領ザフォドの宇宙船へ。」までが限界かと。

私は人様の書いたものにケチ付けられるほど偉い人間じゃないですが、もし他のサイトで真面目にこの映画の「テーマ」について解説してたら、知ったかぶりじゃねーか?と疑ってください。
私から言えるのは、この映画の「テーマ」について真面目に解説できるのは、アダムスの研究者の方だけで、その方々も多分、「え? テーマ?」っていうんじゃなかろーかってことだけです。
とにかく意味がわからんのです。この話。小説にしろ映画にしろ。
テーマってなに? 起承転結ってなに? 
いやはや、真面目な人は怒るよね、これ。

原作者のダグラス・アダムスモンティ・パイソン*3にも関わったことのある人なので、作品は全部(遅筆にすぎる上に早逝したため小説は言うほど数はない)シニカルなコメディ色が強く、ああイギリス人で天才で狂ってるなあと思う(偏見)
でも私を含めてファンが多いのは、わけがわからんのに、とにかく筆力がすごくて強引に世界感に引きずり込まれるからなんでしょうね。
ちなみに私は、わけわからなすぎて、何度読んでも「面白い」以外はキレイに忘れてしまうので、読み返すたびにやっぱり「面白い」。

で、映画なんですが。
これね、脚本家(アダムスが書いてる途中で亡くなったため、別の脚本家が完成させた)と、監督のガース・ジェニングスの力量がもう神がかっていて。
この訳の分からない原作を、曲がりなりにも起承転結つけてるわけですよ。とにかくエピソード(ネタ)の積み重ねのような小説をですよ、細くて細くて蜘蛛の糸かよってほど細いながらも一本の筋の通った物語に仕上げてる。
だから原作と全然違うオチ(いや原作にオチはあるのか?)になるんですが、だからどうしたっていうんです。

よく、「映像化不可能といわれた〇〇を映画化!」なんて宣伝文句の映画、ありますよね。でも言いたい。
映像化不可能ってのは、技術的な問題とか物理的な問題とか、そういうことを指してるんだと思います。でもそれって、いつかは何とかなるのです、科学の進歩で。
不可能を可能にしたってのはですね、そもそも芯になるストーリーがない小説を、2時間近く観客を引っ張って最後にオチまでつくように仕上げたこの映画のことを言うんですよ ! 分かりますかね!(力説)
私にとって銀河ヒッチハイク・ガイド』は小説の映画化作品ベスト1です。
『メッセージ』*4もビックリしましたし、『ロード・オブ・ザ・リング*5も感激しましたけどね。
「すげー! 物語になってる!」という感動を味わったのはこの映画だけです。だから1位。
余談ですが、2位はジム・カヴィーセル主演の『モンテ・クリスト伯』です。原作読んでる人はぜひ観てビックリしてください。全然違うのに原作通りだから。

そういうなんだかスゴイこの映画、なにげにキャストも豪華でして、なんのために出てくるのかよく分からない役にジョン・マルコビッチ、言動のすべてが意味不明で落ち着きのない役にサム・ロックウェル(似合いすぎる……)、マーティン・フリーマンはいつものマーティン・フリーマン、多少まともなズーイー・デシャネルビル・ナイ、声の出演ではなんとヘレン・ミレンアラン・リックマンですよ。
多分、みんなダグラス・アダムスが好きなんでしょう(偏見)。

でも、私がこの映画で延々頭に残り続けるのは、その誰でもなく(いやさすがにサム・ロックウェルの奇怪な演技は多少残るけど)、冒頭のイルカです。

ときどきふいに、イルカの歌「さようなら、いままで魚をありがとう」が脳内でリピートされます。頭に残るんですよね。

youtu.be

イルカたちの上から目線の優しさと冷淡さは、25年前に一人旅したイギリスの印象そのままです。イギリス人、どこ行っても親切だったけど、なんとなく東の果てから来た女の子だから優しくしてあげよう、ってニュアンスも感じました。ま、昔のなんでいまは知りませんが。

人間は、この小説・映画の世界では、たかだか地球で3番目に賢い程度の生き物で、1番目と2番目の生き物とは意思の疎通すらできません。
バイパス工事の予定も知らない、ただ宇宙の演算システムを構成するパーツでしかないモノです。

……だから、私にとって国家とは本音では「たかが国家」なんです。地球単位、いっそ銀河単位で良くね?と思う人間です。無政府主義じゃないですよ。
ただ、国単位だの主義主張単位だので同じだ違うだギャーギャー争うなんて、もっと大きな世界で観れば、ちっちゃい話だと思う。そういうろくでもない人間なのですよ。
ちっさいならちっさいなりに、今日のお茶一杯が美味いとか、そういうことを大事に生きたらどうですかね。
そしてまあそのちっちゃいちっちゃい国の上に立つ人間がするべきことは、今日のお茶一杯をみんなが美味しく味わえるためにどうすればいいのかを考える、本質はそれだけなんじゃないかと思ってます。
そこに注力せずに、権力闘争したりマウントの取り合いしたり、銀河全体から見れば芥子粒より小さい国家なんてものを独占して支配してやろうなんて連中は、あの訳の分からんサム・ロックウェル演じるザフォド元大統領以下じゃないですかね。

まあだからイルカに言われるのでしょう。
さようなら、いままで魚をありがとう

さてさて、だれか宇宙のバイパス工事の予定を見に行ってくれませんかね。
もしかすると、今日が地球最後の日かもしれないし。

 

……いまさら気づきましたが、このブログ始めてなんと1年経ちました
すごい!始めた時は休職中だったのに、復職しても続けてる!
文章書くのが楽しいからってのが一番ですが、何気に毎回読んでくださる皆さんの存在はとってもとっても大きいのです!
細々すぎるほど細々やってますが、バイパス工事で地球が破壊されなければ、これからも続けてまいります!
では、よい午後のお茶を!

*1:竜王の生まれ変わりの四兄弟が何やかやと戦う小説。私が中学生の頃から書かれていて13巻まで頑張ったが、作者の遅筆が過ぎて私は挫折。政治家や権力者やその腰ぎんちゃくが完膚なきまでにボコられるので気分がいい。数年前に完結したらしいが未読。

*2:世界中の巨匠と呼ばれる映画監督たちが尊敬して真似したがる日本映画の巨匠オブ巨匠。あのたるみのないキレッキレの演出が、どうして日本でできないのかわからん。ちなみに私の一番好きな黒澤映画は『蜘蛛巣城』です

*3:イギリスのコメディアングループ。超高学歴&真のインテリジェンスが本気でバカをやる。天才と狂人は同義語だと思う。映画監督のテリー・ギリアムはメンバーの一人。さもありなん。

*4:あなたの人生の物語テッド・チャン著。このブログでも書いてるので良ければ読んでくださいませ。

*5:指輪物語』J・R・R・トールキン著。映画も長いが原作も長い。読むと止まらないので3連休は必須。