前世戦士の映画日誌

前世が戦士らしい女が映画を観て色々吐き出します 生態日誌です

『メッセージ』言葉について結構真面目に考えてしまう話(ネタバレあり)

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何となくSFな気分が続いているので、『メッセージ』。
原作者(『あなたの人生の物語』)のテッド・チャンは、この物語は物理学の原理に対する興味から生まれた、と言ってますが、映画ではほぼ言語の方に集中して語られてます。

プリズナーズ」「ボーダーライン」などを手がけ、2017年公開の「ブレードランナー 2049」の監督にも抜擢されたカナダの鬼才ドゥニ・ビルヌーブが、異星人とのコンタクトを描いた米作家テッド・チャンの短編小説「あなたの人生の物語」を映画化したSFドラマ。ある日、突如として地球上に降り立った巨大な球体型宇宙船。言語学者のルイーズは、謎の知的生命体との意思疎通をはかる役目を担うこととなり、“彼ら”が人類に何を伝えようとしているのかを探っていくのだが……。主人公ルイーズ役は「アメリカン・ハッスル」「魔法にかけられて」のエイミー・アダムス。その他、「アベンジャーズ」「ハート・ロッカー」のジェレミー・レナー、「ラストキング・オブ・スコットランド」でオスカー受賞のフォレスト・ウィテカーが共演。

2016年製作/116分/G/アメリ
原題:Arrival
配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
(映画.comより)

いや、そうしてくれて助かった。
なにせ私、高校の頃、物理のテストで100点満点中2点という人生最低点数をたたき出して以来、物理には苦手意識がありまして。

とはいえ、映画のセリフだけだと分かりにくい、宇宙人ヘプタボットの考え方みたいなところは、原作にある物理学の「変分原則」の説明で補完されるので、頑張って原作を読む価値はあります。
幸いにして、物理学者が専門外の言語学者に説明する形になってるから、映画観たあと3回くらい読めばなんとかなる。
多分!おそらく!なんとなく!

『メッセージ』って結構何度も観てしまう映画で、私は観る度に「言葉と思考の関係」ってものを考えるんですね。
映画では、言語学者のルイーズが、宇宙人ヘプタボットの言語を習得することで、彼女がヘプタボット同様、未来が見えるようになっていきます。

私、一昨年のラグビーワールドカップの後から、英語の勉強してまして。
自分の経験上、「会話で学ぶ」と絶対続かないと思ったので、文法から教えてくれる学校に五か月ほど通いました。

 そのころ、先生の話でなるほどなと思ったことがあります。
「外国語を本気で習熟しようとすると、ネイティブの考え方や文化を学ぶ必要が出てくる。逆に、外国語を勉強することで、自然とネイティブのような考え方ができるようになる人もいる

英語の話者と、日本語の話者の違いでよく言われるのは、動詞の位置ですよね。
英語は、主語のすぐ後ろに動詞がくるので、最初の数語でとりあえず何をするのかはわかる。
でも、日本語だと動詞は最後に来るので、最後まで話を聞かないと意思がわからない

だから日本語は、とりあえず言葉をつなぎながらオチを考えるという、想定外の質問に狼狽えながらも何か回答してるっぽく見える、政治家の答弁みたいなことも可能です。
英語だと、ひどい時には ” I…I…” と、主語で詰まってたりして、答え準備してませんでした感がすごい。逆にちょっとかわいそう。

だからなのか、私は、日本語で考えたことをそのまま英文にするのが苦手です。
なので、頭の中で、日本語を英語の語順に並べ替えてから英文にするという、パズルゲームみたいなことをしています(たかだか中学生レベルの英作文)。
いまはこれを、考えこみながらやってますが(くどいようだが中学生レベルの英作文)、速度が上がれば、確かに結論や自分の意思が先に浮かんでくるようになる気がします。

そういう経験を踏まえてこの映画を観ると、ルイーズがどんどんヘプタボットと同じ思考(未来が見える)になっていくことが、別段不思議に思えないんですよね。
むしろ、宇宙人から未来を見るテクノロジーをもらったとか、なにか予知する超能力を授かった、なんて設定より、むしろ自然で楽なことのように思えてしまう。

ルイーズは未来を知る力を得たおかげで、世界には楽観的な未来が訪れることがわかってくる。
一方で、ルイーズ自身の人生には、辛い別れが訪れることもわかってしまう。
未来がわかってるなら変えればいい、という考えもあるけれど、ヘプタボットと同じ思考を得た彼女にとって、未来はもう「起こってしまったこと」だから、違う選択をするという「選択」自体がありえない。
だからルイーズは、起きた結果(未来)を、深い愛情でもって、全部まるごと受け入れます。
そう思うと、ヘプタボットの思考というものは、究極には愛につながるものかもしれません。

映画では、彼らの言葉を「武器」と表現する場面があるんですが、何やら現代社会を示唆しているようで、含蓄があります。
テクノロジーの進化で、世界中に言葉が届いてしまうこの時代。
たかだか200文字の言葉がもつ力によって、人の心や思考が右往左往して、良いことも悪いことも、ここ数年で山ほど起きました。言葉には、人を動かす力があると、痛感します。
ただ、我々の言葉はヘプタボットの言葉ではないのでね。言葉の力をどう使うか、どう受け止めるかは、自分自身で選択できる。
そのことに、もっと意識的になっていい頃合いだと思います。

おっと、何やら語ってしまいましたねー。
言葉が中心にあるせいか、『メッセージ』はSF映画ではあるんですが、全体的に詩的で文学的な雰囲気が強くて、色々考えてしまうし、見る度に原作も読むので、さらにまた考えてしまいます。

できれば原著で読みたいところです。そうすればヘプタボット語の文法とか、ルイーズの見る未来の捉え方も、より理解できそう。
でも、いかんせん、日本語訳ですら読み解くのが大変だった文章を、英語で読めるほど読解力ないんでね。
日本語訳と突き合わせながらでも自信ない。
物理学の説明とか、言語学の説明とか、無理無理無理!

ああ、こんなときに、私もヘプタボットの言葉を操れれば!
そしたら英語力がレベルアップした未来の自分が原著を読んで理解したことを、いま知ることができるのに!(いいからフツーに勉強しろ)

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