前世戦士の映画日誌

前世が戦士らしい女が映画を観て色々吐き出します 生態日誌です

『マウス・オブ・マッドネス』我が生涯ベスト1映画(ネタバレなし)

f:id:sinok_b:20210104011509j:image
2021年、自分自身の原点回帰のため『マウス・オブ・マッドネス』を観ました。
理由は記事のタイトルそのまんま。4歳から映画を見続け40年以上経ちましたが、この映画を観て以降、生涯ベスト1が揺らいだことはありません。

私を映画の世界に引きずり込んだという意味では、『スター・ウォーズ』が一番です。
でも、最初は、監督のジョン・カーペンターと主演のサム・ニールが大好きだからというだけで観たこの映画に、出会ってしまった。
この映画で、自分なりの映画の見方、あるいは価値基準とでもいうものが出来上がったんです。

保険調査員のジョンは失踪した作家サター・ケーンの捜索を依頼される。やがてジョンは編集者のリンダとともに、ケーンの小説に出てくる架空の町にたどり着く。不可解な出来事が相次ぐ中、ジョンはケーンを見つけるが、彼の新作小説「マウス・オブ・マッドネス」に絡む恐ろしい企みを知る一方、次第に正気を失っていくことに……。現実と小説の中の世界が交錯する幻想的な怪奇ホラー。

1995年製作/96分/アメリ
原題:In the Mouth of Madness
(映画.comより)

私が生涯ベスト1だとあまりに力説するので、以前、興味を持った同僚にDVDを貸したことがあります。
彼は「よく筋がわからなかった。でも飛ばさずちゃんと観たよ」と言い、そしてその後のことを正直に教えてくれた。

「何年も夢なんか見なかったのに、夢を見たよ、悪夢みたいな。よく覚えてないけど、何度も殺されて甦ったりするんだ」

この映画について、おそらくこれ以上に素晴らしい感想はないだろう。
そうなんだよ、訳がわからないけど、魂にざっくり爪痕を残すんだ。

この映画、最後まで見ても、現実なのか夢なのか映画なのか小説なのかわからない。わからないまま、映画の世界に呑み込まれてしまう。
邦題だと前置詞がないので間の抜けた感じになっちゃってるけど、原題は"In the mouth of madness"。つまり「狂気の口の中で」。
映画を観ているうちに、主人公トレントも私たちも、狂気の口の中に呑み込まれてしまう。

この映画のラストは、どんでん返しと言えなくもない。でも、他の映画とは違う。
ラストで実は今までのは、という映画はいくつもあるけど、この映画にはその「実」がない。
ラストが現実なのか非現実なのかわからない、って映画もある。でもこの映画にはそもそも対照とする現実があるのかどうかわからない。

説明は、一切ない。でも観ると何かは伝わってきて、まるで経験したかのように自分の中に刻まれる。

この映画を観て、私は自分が「映画」と呼ぶものの正体が、はっきりとわかった。

ああ、これが映画なんだ。

映画には、説明はいらない。

物語は、映像で語れ。

映像に、全てをぶちこめ。

私は『映画秘宝ディレクターズ・ファイル ジョン・カーペンター 恐怖の倫理』という、鷲巣義明さん*1の本を持っています。ここに収録されている、『マウス~』についてのインタビューで、カーペンターが最後に語っている言葉が大好きです。日本の観客に向けてひとこと、と言われて彼はこう言った。

黒澤明監督はかつてこう言っていたよ。"映画監督にメッセージがあれば、ボードを持って見せればいい"って。映画監督にメッセージはない。全部映画の中に入っているよ……映画を観て欲しい。映画を観て楽しんで、死ぬほど怖がってほしい。

(111ページ下段)

この言葉で、自分が開眼したものが間違ってなかったと確信しました。鷲巣さん、ありがとうございます。カーペンター作品観る度に読んでます。大事にしてます。勝手に引用してすみません。

もちろん、作り手が映画に込めたものをより深く理解するために、インタビューや解説を読んだり、題材について調べるのは大事なことだと思う。
そうして蓄えたものは次に活かされて、映画から受けとれるものがもっと増えるから。

でも、私たちがまっさらな状態で観た時に、訳がわからなくても、作り手が映画に託した何かを受けとれれば、映画を観た意味は十分にある。

同僚にとって、『マウス~』は「悪夢を見させた映画」として多分ずっと残るだろう。
私にとって、『マウス~』は映画そのものだ。

初見から20年以上たった今、改めて断言する。

あと100年私が生きたとしても、これが生涯ベスト1だ。

映画秘宝ディレクターズ・ファイル ジョン・カーペンター 恐怖の倫理

映画秘宝ディレクターズ・ファイル ジョン・カーペンター 恐怖の倫理

  • 発売日: 2011/09/30
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

*1:日本でジョン・カーペンターの第一人者と言えば鷲巣義明さん、というほどのライターでカーペンター研究者。