前世戦士の映画日誌

前世が戦士らしい女が映画を観て色々吐き出します 生態日誌です

『パピヨン』スターについて経理の課長に言いたかったこと

f:id:sinok_b:20201230015832j:plain

新入社員の頃、飲み会で経理の課長から声をかけられたことがありまして。課長は映画が好きだそうで、私の趣味が映画鑑賞と知って、話してみたくなったらしい。

「しのぶさん、映画が好きなんだって?」
「はい」
「じゃあ、映画スターにとって、何が一番大事だと思う?」
「顔です!」
「ああ、そう。ふふん」(ホントにふふんと言ったんだ!

そう笑って、課長はさっさと席を立っていきました。
その後二度と、仕事以外で会話したことはありません。

あの時、課長が言った「ふふん」は、「ようするに、美男美女ってことだろ」みたいな意味合いだったと思っている(たぶん間違ってない)。
新入社員だったからとはいえ、食い下がって説明できなかったことが、いまだにものすごく悔しいのですよ、私。

その記憶が、久々にオリジナル版『パピヨン』を観ていて、ふつふつと沸き上がって来たので、ここでそのうっ憤晴らしをしたいと思います。

無実の罪で13年間の刑務所生活を強いられたアンリ・シャリエールの実話に基づく小説を、スティーブ・マックィーンダスティン・ホフマンの2大スターで映画化。監督は「猿の惑星」「パットン大戦車軍団」のフランクリン・J・シャフナー。胸に蝶の刺青があることからパピヨンと呼ばれる男。身に覚えのない殺人罪終身刑を言い渡された彼は、自由を求めて脱獄を繰り返した末、親友のドガと共に脱獄不可能とされる孤島に送られる。

1973年製作/151分/G/フランス・アメリカ合作
原題:Papillon

(映画.comより)

主役のパピヨンをマックイーン、親友ドガをホフマンが演じました。
実は『パピヨン』はもう一作あって、チャーリー・ハナム&ラミ・マレック主演のリメイク版があります。
こちらは公開時に映画館で観ました。基本、筋は一緒で、リメイクの方がテンポが良くて観やすい。

でも、印象に残るのは、オリジナルの方なんですよ。
映画全体じゃなくて、場面。正確にいえば、スティーブ・マックイーンの顔なんですね。
美醜とか好みの話じゃありません。正直、顔だけなら、私好みの俳優、出てないし。

ただ、チャーリー・ハナムは、体が好きで。
そもそもリメイク版を映画館で観たのは、ハナムの体目当てと言っても過言ではない。
エロ目線だけじゃないですよ(ゼロではない)。ハナムって、体の動きで表現するタイプなんだと思うんですよ。

裸で殴り合うアクションでも(ここだけで元は取った)、動きの少ない静かな演技でも、理不尽への怒り、生への執着、脱出への執念、そういったものを、腕や首や背中の筋肉ひとつひとつが、静かに訴えてくるようで。

パピヨン』で一番衝撃的なのは、過酷な環境下の独房シーンです。食べ物も明かりもほとんどなく、パピヨンは精神的にも肉体的にも追い込まれていく。
狂気と正気、燃え尽きそうになりながらも消えずにいる命。そういうものを、ハナムは全身で演じてました。

でもね、マックイーンは、それらを全部、顔だけでやってのけた。

私は、マックイーンのことは、すごく演技が上手いとは思っていなくて、演技だけならこの映画でもホフマンの方が上だと思ってます。ラストシーンなんか、個人的にホフマンの出演作では屈指の名演技だと思う(毎回、ここで泣く)。
独房でのマックイーンによる狂気の表現は、一歩引いて見れば、大袈裟でやり過ぎとも見える。元々、カッコつけでオーバーアクトな役者だし。
でも、それでも、マックイーンの顔の方がいい。

マックイーンは、何を演じても、顔に「スティーブ・マックイーン」が残ってます。この映画でも、彼は自分の顔の下にパピヨンを重ねただけで。
マックイーンは、「マックイーンじゃない役」は演じなかったし、できなかった。
その代わり、本人と役、二人分の男が重なった顔は、演技というより、ある種の真実なんです。
これに勝るものって、ないですよ。

ハナムは、体をみてると「チャーリー・ハナム」がちゃんといるのに、顔にはいなくて、「パピヨン」だけになってしまう。
体目当ての私はいいけど、顔の自己主張が足らんのよ*1

そこが、スターとして、大中小の差がついてしまうところ。
何を演じてもスター本人の顔が消えない。それでいて、役と同化している。
それが私の考える大スター*2

そういうことを言いたかったんだよ、あのクソッタレ課長に!

悔しいので、今ここで改めて、経理課長だったヤツに言う。

スターにとって大事なのは、顔だからな、鈴木!

 

 

*1:ハナムが好きな私でさえ、急に顔だけみると、チャニング・テイタムと一瞬迷う。その場合、髪の色と体で区別する。

*2:現在のこの手の代表はトム・クルーズ。スパイをやろうが、ダメ親父をやろうが、モテ男製造自己啓発セミナー伝道師をやろうが、全てがトム。さすが思う一方、自分を晒して演じる彼のようなスターは、生きていくのが辛そうだ。