前世戦士の映画日誌

前世が戦士らしい女が映画を観て色々吐き出します 生態日誌です

『RED/レッド』ナメてたババアが最強でしたって映画が観たい

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復職疲れと『ゲーム・オブ・スローンズ』の一気見で、2月は更新が滞り気味でした。週明けは同僚がシーズン8を持ってくるはずなので、今のうちに(?)書きまくってます。
3月はそれなりに体力も戻ってきましたが、別の体調問題が浮上しましてね……。ヘレン・ミレンに元気がもらいたくて『RED/レッド』です。

ウォーレン・エリス&カリー・ハマーの同名グラフィック・ノベルを、ブルース・ウィリスモーガン・フリーマンジョン・マルコビッチヘレン・ミレンの豪華共演で映画化したアクション・コメディ。かつてCIAの工作員だったフランク、ジョー、マービン、ビクトリアの4人は、内部機密を知りすぎているという理由でCIAの暗殺対象者になってしまう。4人は生き残りをかけてCIA本部に侵入するが……。監督は「フライトプラン」のロベルト・シュベンケ。

2010年製作/111分/G/アメリ
原題:Red
配給:ディズニー
(映画.com)

この映画、主演は紛れもなくブルース・ウィリスなんです。
でも途中から、モーガン・フリーマンのセクハラ演技(本人がセクハラ常習者と知って、今見るとドン引き)、ジョン・マルコビッチの怪演、ブライアン・コックスの貫禄と、登場人物が増える度にウィリスの印象が薄くなり、とどめにヘレン・ミレンのエレガンスに全て持っていかれるという、何となく10年代に入ってからのウィリスの微妙な立ち位置を予感させる映画です。
続編の『REDリターンズ』でも、ウィリスがなにやってたのか思い出せないのよね、私。

とにかくヘレン・ミレンが目立つのなんの。エレガンスという、他の出演者が持ち得ない特性がフルに発揮され、白いドレスでマシンガン撃ちまくる姿はこの映画最大の見せ場。
元MI6という設定ですが、ボンドといいMといい、MI6の採用基準にはエレガンスが含まれてるのか?(映画が違う)

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マシンガンとドレスのコーディネートが完璧

これにロシアスパイとの禁じられた恋が絡んで、もうトキメキMAXですよ(死語)。ブライアン・コックスが、胸の銃創を愛の証として見せるところもうっとりです。
私はこーゆーのにものすごく弱いのです。正直言って、ウィリスのちまちました恋の行方はどーでもいい。
REDリターンズ』ではヘレン・ミレンの見せ場がさらに増えるのですが、その話はまたいつか。

 で、冒頭に書いた体調問題なんですが、ここ数ヶ月、ホットフラッシュ、ようは火照りと発汗を繰り返すことがちょいちょいありまして。
まあお年頃だし、仕事しすぎで休職するほどだったし、生理も不順だし、ホルモンバランスが崩れてんのかなーと、婦人科で検査したんです。
で、先日検査結果もらったんですが、基準値がっつり満たしていて

「更年期、閉経ですね」

とさらっと言われましたよ。
って、おいこらちょっと、なんばいいよっとか、きさーん!*1

お年頃とはいえ、本格的な更年期だの閉経だのは、まだ何年も先だと思っていたのに(ここまで暴露しといて、なぜ年齢をぼかすのか)。もちろん、平均からはかなり早め。
実際の閉経確定は「1年間生理がない」という、どっかのポイントカードみたいな基準があるんで、まだこれからなんですが。

とはいえ、検査結果は明白です。早い、早すぎる。
医者からは、個人差もあるけど、休職原因でもある過労やストレスも関係しているかも、と言われました。
……なぜでしょうね、休職する羽目になった時よりも激しい、本能的な怒りを感じるのは。
私の女性ホルモン、返しやがれ、クソ会社!

で、我が身にふりかかって気づいたんですよ。俳優の場合、仕事中にホットフラッシュや悪心がきたらどんなに大変だろうかって。

私は今のところ、ホットフラッシュ+息苦しさを感じるぐらいですが、それなりにキツい日もあります。もっと症状が重い人は、動悸がしたり悪心がしたり、心臓が止まるんじゃないかと思うほどツラいそうです。
症状もツラいんですが、自分で自分の体がコントロールできなくなる感覚があって、それが非常に気持ち悪い。

しかも、更年期の症状って、時間も場所も関係なく不意打ちで来ますからね。
寝入りばなにくると睡眠薬飲んでるのに眠れないし、外気温5度の中で外出してるのに顔真っ赤で汗だくになるし、マスクしてるから息苦しさは倍増するし。
この間はホットフラッシュ状態で出社して、「走ってきたの!?」と上司(男)に驚かれました(ちょうどいいので「過労が原因で更年期が早くきた」と言って、軽くイジメた)。
もうね、突然悪魔に憑依されるよーなもんですよ。
マジで怖いぜ、男性諸君。 

ヘレン・ミレンがどんな更年期を過ごしたのか知りませんが、時代を考えると、相当な苦労があったはず。
症状の緩和には、漢方薬とかホルモン治療とか方法はあるにはありますが、完全にはなくならない。40~50代の女性はオファーされる役が減ると言われますが、体調面で仕事をセーブせざるを得ない人もいるかもしれない。
そう思ったら、ヘレン・ミレンのように、年齢を重ねてなお活躍する女性への尊敬の念はいや増すばかりです。

……最近思うんですよ。
ナメてたジジイが最強でした、みたいな映画って多いじゃないですか。この映画もそうですし、ちょっと違うけど、『エクスペンタブルズ』も年齢高めの野郎共の映画ですよね。

でも、ナメてたババアが最強でした、って映画はない気がして。
女性がアクション映画でバリバリに活躍しだした歴史が、浅いせいだと思いますが。
それでも過去の出演作から考えれば、役者の候補は結構いるんですよね。60overだとこんな感じはいかがでしょう。

ヘレン・ミレンはもちろんとして、シガニー・ウィーバーリンダ・ハミルトンパム・グリアあたりは鉄板*2ジュディ・デンチグレン・クローズジーナ・デイヴィススーザン・サランドンもおさえたい*3
キャシー・ベイツのキレた演技も、アクセントとして欲しいところ*4ミシェル・ファイファーの衣装は、もちろんキャットウーマン*5
現役だったら、志穂美悦子も入れるのに*6

年寄りに翻弄されるカール・アーバンの位置付けは、今が旬のマイケル・B・ジョーダンがいいな*7
あ、悪役は、ぜひメリル・ストリープでお願いします*8

おおおおおお、観たい!
誰か作れ!
需要はあるぞ!
いくらかかるか知らんけど!

*1:福岡等、北部九州における「何言ってるんだ、貴様」の意

*2:選定理由の出演作は、順に『エイリアン』シリーズ、『ターミネーター』シリーズ。パム・グリアは『コフィー』と書くべきだけど、私が未見なので『ジャッキー・ブラウン

*3:『007』シリーズ、『危険な情事』ではなく『101』、当然『テルマ&ルイーズ

*4:ミザリー』。この映画のおかげで、私は彼女が出てくるたびに裏があるんじゃと疑ってしまう。

*5:バットマン リターンズ』。もはや芸術。

*6:『二代目はクリスチャン』。千葉真一仕込みの、日本最初の女性アクションスターだったのに、長渕剛と結婚して引退。この件では、私はいまだに長渕剛を許していない(逆恨み)。

*7:『ブラック・パンサー』で大ブレイク。セクシーだわー。

*8:『激流』。たぶん、彼女唯一のアクション映画。役者としても最強のラスボスだし。

『デイブレイカー』イーサン・ホークにハズレなしの阿鼻叫喚地獄絵図(ネタバレあり)

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すっかりサム・ニールモードになっているので、久しぶりに『デイブレイカー』。

これを映画館で観たのは、広島に勤務していた頃。元々は『マチェーテ*1を観に行ったんですよ。
チケット売り場で座席を指定しようとしたら、売り場の方から「ここと、ここ以外は、全部空いてます」と営業スマイルで言われた記憶は、今でも鮮明です。
そして『マチェーテ』を大満足で観終わった後、売店でパンフレットを買おうとしたら「この映画はパンフレットお作りしてないんですよ」と無常に言われ、物悲しい気分になってしまい、未練がましくパンフレットの見本を眺めていたところ……。

「サ、サム・ニールがいる!?」

と、この映画を発見。
売店から即行で踵を返しチケット売り場に戻ったら、同じ方が売り場にいて「こちらも、ほとんど空いてます……ふっ」と、笑いをかみ殺しながらチケットを売ってくれました。甘酸っぱい思い出です。

そういう余計なことも思い出しながらの『デイブレイカー』鑑賞です。

永遠の命を持つバンパイアによって世界が支配されている2019年。人類は絶滅寸前で、バンパイアに必要不可欠な人間の血液も底を突きかけていた。血液の代用を探すバンパイアの研究者エドは、人類の生き残りオードリーと出会い、バンパイアと人類の双方を救済できる驚くべき方法を知るが、バンパイアと人類は最終戦争に突入してしまう。監督は「アンデッド」(03)で知られる双子の兄弟ピーター&マイケル・スピエリッグ。出演はイーサン・ホークウィレム・デフォーサム・ニール

2010年製作/98分/R15+/オーストラリア・アメリカ合作
原題:Daybreakers
配給:ブロードメディア・スタジオ
(映画.comより)

これ、確かパンフレットにもほぼ同じことを書いてあったんですが(確認しろって)、人血をワイングラスに入れて飲むサム・ニールが、実に様になっていて、たまらんのですよ。
どういうわけか、サム・ニールが演じてそうで演じてなかったヴァンパイア。
以前、『ブレイド』でウド・キアがヴァンパイア役*2をしているのを見て、サム・ニールも似合いそうだなあ、と思ったものでしたが、この映画で夢が叶ったように思いました。

ついでに言えば、ここまで真正面から悪役をするのも、あまり無いんですよね。
と、書いたところで、私がいつも、サム・ニールの役柄を「悪役」と認識してないだけなんじゃないかと気づいてしまったので、この話はここまで(無責任)。

ということで、サム・ニール目当ての映画なんですが、主演はイーサン・ホークウィレム・デフォーも出てるので、この三人が映画を一気に格上げしています。あらすじだけ読むとB級っぽく思えるかもしれませんが、Aマイナスくらいあげてください。

いや本当に、イーサン・ホークにハズレなし、です。
サム・ニールは時々微妙なものに出るので困るんですが、イーサン・ホークは絶対にハズさない。
脚本見る目がいいんでしょうね。ウィレム・デフォーが、この映画に出たのは「イーサン・ホークが出るから」と言ってました。業界人すら信頼する目利き。
これ観ようかなー、どうしようかなー、と迷った時にイーサン・ホークが出てるなら、どんなジャンルの映画であっても、少なくとも「死ぬほどつまらんかった」とはなりません(同じことを言う人は多い)。

それはさておき。
ヴァンパイアが食物連鎖の頂点に立って、調子こいて人間の血を呑んでたら、人間が少なくなって食糧危機が訪れた、という、よく考えたら「そりゃそうだよな」となる話です。
自然界を考えたらわかる話なんですが、捕食動物ってのは、獲物より数が多くはならないんですよね。そりゃそうですよ、エサが足りなくなっちゃうんだから。

現実世界では、世界の人口は2020年の終わりに78億人になったそうです。私が子供のころは45億人って学校で習いましたが、あれからすごい勢いで増えました。
これを踏まえてですよ。映画の設定のように、人口における人類の割合が5%切るってことになると、ヴァンパイア74億人に対して人類4億人になります(仕事柄、すぐ計算する)。
つまり、1人の血で18.5人養わなきゃいけないわけです。
日本の年金制度が安泰に見えてしまいます(そこは正気を保て)。

よく考えたら、ヴァンパイアというのは血を飲まないと生きていけないって時点で、雑食の人類より生存しにくいんですよね。山ほどヴァンパイアに転化する前に、そこに気づいた奴はいなかったんでしょうか。
やはり、こういう面倒くさい生き物は(死んでるけど)、希少であることが自然な気がします。
そういうヴァンパイアという生き物(死んでるってば)の特性を、ここまで現実的に詰めた話ってのはあまりなく、そのあたりがイーサン・ホークのお眼鏡にかなったのかもしれません。

この大前提に加えて、クライマックスで、ヴァンパイアから人間に戻った人間の血をヴァンパイアが飲むと、そのヴァンパイアも人間に戻ってしまう(書いてみるとややこしいな)ということがわかり、ここからが怒涛の阿鼻叫喚地獄絵図
なにせ、食糧危機で飢えてるヴァンパイアだらけです。元ヴァンパイアの血を飲んだヴァンパイアが人間に戻ってしまい、今度はそいつに他のヴァンパイアが咬みつき、そのヴァンパイアが人間に戻ったら、また他のヴァンパイアが……。
捕食者と被食者が、すごいスピードで変わっていくので、もう滅茶苦茶。

全体的に派手な殺戮シーンは少ないのにR15+指定、つまり15歳未満お断り映画になっているのは、この場面のせいじゃないかと。私ですら、映画館で観た時は唖然としましたから。
これの前にみたマチェーテ』は18禁ですが、あのバイオレンス描写は笑えますからね。もちろん、腸をロープがわりにして窓から逃げる、なんてシーンを笑うには、観る側がバイオレンス描写に慣れていて、かつ映画のコンセプトを承知しているという前提があるとはいえ。
私には子供も甥姪もいないので縁のない悩みですが、同じ趣味でお子さんがいらっしゃる方は頭が痛いところなんでしょうね(あ、同僚が『ゲーム・オブ・スローンズ』で困ってたな)。

ということで、広島の映画館では私以外に1人しか観客がいなかった映画ですが、私が好む映画にしては間違いなく良質です。
私のことは信じなくていいので、どうかイーサン・ホークを信じてください。

eiga.com

*1:脇役悪役の常連ダニー・トレホ主演のアクション映画。C級D級の映画をロバート・ロドリゲスというA級監督(……か?)が作るとこうなるという例。アクションはキレッキレで、アメリカの移民問題を背景にしていてメッセージ性もあるが、安易に人に勧められない内容なのがツライ。

*2:人間とヴァンパイアを親に持つヴァンパイアハンターが、ヴァンパイアを刀で狩りまくる爽快な映画。ウド・キアは純血ヴァンパイアの長老役。実にエレガント。

『グリム・ブラザーズ スノーホワイト』シガニー・ウィーバーはサム・ニールをどうしたかったのか

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2012年はおかしな年でした。なにせグリム童話の「白雪姫」を元にした映画が、2本も公開されたんですから(B級でもう1本あったらしい)。
1本は白雪姫がクリステン・スチュアートで、継母のシャーリーズ・セロン様とガチンコ対決する『スノーホワイト』。
もう1本は白雪姫がリリー・コリンズで、継母がジュリア・ロバーツの『白雪姫と鏡の女王』。こちらはなんと言っても、監督がインド産の鬼才ターセム・シンなので、とにかくビジュアルが素晴らしかった。
そして両方に共通しているのは、女性陣が自立していて逞しく、王子含め男性陣は添え物、というところ。
この辺、時代の変化を感じます。受け身のプリンセスは、用なしになりました。

でも実は、そんな時代を予感させる映画が、すでに90年代にあったんですよ。継母の存在感が大きく、父親や王子的存在はひたすら軽く、7人の小人は解釈を変え、白雪姫は最後に継母としっかり対峙する。
それがこれ、『グリム・ブラザーズ スノーホワイト』。アメリカではTV映画でしたが、日本では劇場公開されていたので、私、映画館で観ました。
だって、継母がシガニー・ウィーバーで、白雪姫の父親がサム・ニールなんだもの。

誰もが知っているグリム兄弟の名作童話「白雪姫」を、1812年に発表された原典に忠実に、その残酷さと狂気の世界を再現したファンタジー・ホラー。監督は「インターセプター」のマイケル・コーン。製作は「ターミナル・ベロシティ」のトム・エンゲルマン。撮影は「嵐が丘」(92)のマイク・サウソン、音楽は「ケーブルガイ」のジョン・オットマン、美術は「ハマースミスの6日間」のジェマ・ジャクソン。主演は「コピーキャット」のシガニー・ウィーヴァーと「あなたが寝てる間に…」のモニカ・キーナ。共演は「恋の闇 愛の光」のサム・ニール、「マイアミ・ラプソディー」のギル・ベロウズほか。

1997年製作/100分/アメリ
原題:Snow White
配給:ギャガ・コミュニケーションズ=ヒューマックス・ピクチャーズ
(映画.comより)

はい、前回の『N.Y.犯罪潜入捜査官』を観た勢いで、DVD引っ張り出してきちゃいました。
この映画でのサム・ニールは、打って変わって、後妻に翻弄されるだけの男なので、ファンとして面白みはないのよねー。
まあでもサム・ニールって、女性に翻弄されるばかりの役っていうのが結構あって、その辺は前回書いたセクシーさに欠けるところが影響しているかもしれません。寝取られ夫の役も多いし。

で、この映画でとにかく目立つのは、シガニー・ウィーバーの継母なんですね。
この継母、彼女の背景や内面がまったく説明されず、シガニー・ウィーバーという配役一本で納得してもらおうという、「ね、わかるでしょ」な役なんです。他のキャラは、それなりにわかるようになってるんですけどね。

でも、そんなこと、シガニー・ウィーバーが怖くて言えません。
もうね、シガニー劇場なんですよ。彼女が演じる継母の狂気が全てです。
ちょっと冷静になると、彼女が一人でくるくる回ってるだけって絵面ではあるんですが、迫力が……。
「そういうものなのよ、文句ある?」と言われてるような圧が、怖い。

元々、子供向けにソフトになった内容ではなく、グリム童話の原典にある残酷描写を描こうというコンセプトで作られた映画です。
彼女はそれをしっかり表現していて、過剰なまでに狂気の継母を演じています。
今でこそ、グリム童話は実は残酷だと、頭にインプットされているんですが、当時は結構ドン引きした記憶があります。久々に観ると、落ち着いて見られるというか、さほど驚かなくなっている自分がいました。
まあでも、それでもシガニー・ウィーバーは手が付けられない感じで、めちゃくちゃ怖いんですが。

特にですね、白雪姫の父親への仕打ちがひどいんですよ。これは、2012年の作品にはなかったと思います。
直接手を下してることを考えれば、白雪姫に対するものより、酷い。精を搾り取られたあげくに、十字架に括られて逆さづりですよ。

サム・ニールの出演を推したのはシガニー・ウィーバーだったと、パンフレットに書いてあったと記憶してますが(ちゃんと探して確認しろ)、役柄から考えて彼を推したのなら、彼女はサム・ニールを虐待してみたかったのかと邪推したくなるんですが、どうなんでしょう。
なんとなく、その方が面白いかな、と思う私のサム・ニール愛は、深すぎて水圧で歪んでます。

『N.Y.犯罪潜入捜査官』サム・ニールがボンド役のオーディションに落ちた理由がわかった件

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昨日『ゲーム・オブ・スローンズ』のシーズン7まで(こだわる)観終わった後、ふとAmazonを見ると、この映画のDVDが1枚だけ在庫がありとなったので即購入。着荷して即観ました。
サム・ニールのファンとロブ・ロウのファン以外、全く需要がない映画なんですが、私はそのサム・ニールが大好きなので、前々からDVDが欲しかった作品です。
最悪レンタル落ちの中古を覚悟してたんですが、まさかの新品で幸せです。
ちなみにこれ、正確にはTV映画。日本で言えば、土曜ワイド劇場よりは上かな、という感じ。

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いやー、予想通り、中途半端な出来で大満足です‼
……というのはTV映画だと知っていたから言える感想で、そうでなければ「はい⁉」となること必須。雑です、雑。
そのせいか誰も話題にしていないらしく、ネットで検索かけると検索結果に『N.Y.心霊捜査官』*1と混ざって出てくる始末。もちろん、これぽっちも関係もありません。

作品紹介にある「アクション」は無いも同然だし、DVDのパッケージにある「激突」も「生死」も「壮絶」もありません。ロブ・ロウ演じる刑事のマイクも、果たして腕利きかというと、正直者なだけじゃないの、という感じ。

そもそも、邦題にあるような「潜入捜査」はしてないんですよ。だからといって、原題の”Framed”(無実の罪をうけた、罠にはめられた)というのも微妙。
マイクの過去や終盤の状況を表してるんだろうけど、そこはドラマの中核じゃないから、タイトルにされてもねえ……。
邦題原題共に「なんか違う」という、ズレてる感がすごいです。

でもサム・ニールは良かった!
彼のうさん臭い眼力が最初から最後まで堪能できて、サムを観ているだけで楽しいんですよ!(誰にも響かない感想)
彼の一番の魅力は腹に一物ありそうな眼力なので、目つきが悪くて、ついでに裏表がある役を演じてくれてりゃ、私はそれで充分なのです。うふふふふ。

それに今回の役柄は、金持ちで趣味の良い贅沢男。
仕立ての良いスーツ、優雅にワイン、なーんて風情をサラっと出せるのも、サム・ニールの持ち味。影響されてスーツやワインを嗜むも慣れてないマイクの姿と、なんと違うことでしょう。
ノーブルで知的な雰囲気を、ナチュラルに醸し出せる役者が減った昨今ですが、やっぱりサム・ニールは出てるだけで違います。

正直、この話で彼が仕掛けてる罠なんて大したことじゃなく、ただただ警察やFBIがアホなだけなんですが、出てる役者の中でサム・ニールの格が違うから、なんか妙に納得してしまう。
……というのは、はい、ファンのひいき目です、すみません、ごめんなさい。

でもですね、ファンだからこそわかる、ダメなとこってのもあるんです。「あちゃー、これは違うわ」と思ったのが、女性を侍らせているシーン。
サム・ニール、エロが皆無。全然これっぽっちも見当たらない。

しかもこの役、妻と愛人と3Pするような男なんだけど、そんなエロいことするように全く見えない。
百歩譲って、妻と愛人がベッドいちゃついてるところをソファでワイン飲みながら見て興奮する、なんて性癖ならありかなー。
でもなー、なんだかなー。
ちがうなー。

そこで思い出したのが、サム・ニールティモシー・ダルトンと共に、四代目ジェームズ・ボンド役の候補だったって話です*2
サム・ニールだって、ノーブルでタキシードも似合うし、一筋縄ではいかない男は演じられる。マティーニだって似合うだろう。声も良いから、「ボンド、ジェームズ・ボンド」ってお約束のセリフもステキだろう。

でも、ボンドに一番必要な、セクシーさが無いから無理なんだよおおおお!
好みじゃないけど、私が製作陣でもティモシー・ダルトンにするわ、悪いけど。

などという、おかしなことを考察する余裕が十分にある映画でした。
長年の夢が叶って満足です。
ただし、もう一回観るかどうかは、神のみぞ知る。

www.amazon.co.jp

*1:エリック・バナ主演の、やたらと霊感が強い刑事の話。結構面白いです。

*2:『007 リビング・デイライツ』DVD特典にあるメイキングに、カメラテストの映像があるらしい(Wikipedia参照)。そのためだけに買おうかどうか、もう長いこと悩み中。そもそも、それを収録した版はまだ売っているんだろうか……

『ゲーム・オブ・スローンズ』関係者への謝罪、そして同僚への感謝と脅迫の手紙

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拝啓

ゲーム・オブ・スローンズの関係者各位

まずは皆さんに、心からのお詫びを言わせていただきます。
皆さんが心血を注いで作り上げた作品を、「そうは言ってもドラマでしょ」と、ナメてて本当に申し訳ありません。

この2週間弱でシーズン1から7まで、仕事と睡眠と最低限の家事以外のほとんどの時間を、この作品を観ることに使ってきました。もちろん、このブログの更新もしていません。
複雑な話なので、確認のために見返すことはあっても、観ること自体を止めることはできまなかったのです。

こんな面白いドラマは、ありません。
この壮大な世界と複雑で魅力的な人物たちを、ドラマで観たことなどありません。映画ですら、匹敵するものは少ないでしょう。
これほど素晴らしいものを作り上げた皆さんに、心からの敬意を表します。

確かに、日本での放送が始まった時、私はスターチャンネルに加入しておらず、観ることはできませんでした。
その後、Huluでの配信が始まりましたが、私はHuluには加入しておらず、観ることはありませんでした。TUTAYAでレンタルしようにも、とうの昔に退会しておりました。
が、しかし、Amazonで配信が始まった時、私には視聴可能な環境がありました。なのに、観ることはありませんでした。

この作品の世界観が苦手な訳ではありません。
そもそも私が学生時代に没頭していたのは、中世ヨーロッパ史です。『ゲーム・オブ・スローンズ』が模した世界のど真ん中です。
ましてや卒論は当時のキリスト教による異端審問がテーマです。第5~6シーズンの宗教がらみの展開は、ひさぶりにそのことを思い出しました。

ファンタジーも大好きです。『指輪物語』は中学生で読了し、映画化された時も、何度も観ています。
だからこそ、あの壮大な映画で描かれた世界に匹敵するものが、ドラマでできるわけがないと、思い込んでおりました。

何より私は「次週に続く」というタイプのドラマが、苦手なのです。私の観るドラマのほとんどが、1話完結の殺人事件物ばかり。
私の仕事は終わりのないタイプのもので、売り上げ目標達成とか、何かを作り上げた、という、やり遂げる喜びとは無縁です。
そのせいか、仕事が終わってみるドラマには「解決」を求めます。事件が解決すると、すっきりします。私は解決することが大好きなのです。

それに続き物はシーズン中に中だるみすることも多く、飽きてしまいます。
とりわけ、アメリカのドラマは人気があると延々シーズンを重ねていくこともあり、性格上、終わりの見えないストーリーが続くとハラハラを通り越して、イライラしてしまいます。

例外は『ウォーキング・デッド』で、放送時は毎週録画して観ていますが、かなりスローに展開していくので、実は結構内容をとばしながら観ています。誰が生きるか死ぬかが気になってやめられないだけで、某キャラクターが死亡したら、最終シーズンを待たずに観るのをやめるかもしれません。

失礼しました、他のドラマの話など。

とにかく、そんな私が『ゲーム・オブ・スローンズ』を観ることになったのは、復職中の私の気晴らしになるようにと、同僚がDVDを貸してくれたためです。
借りたからには観て感想のひとつも言わねばならぬと、1枚目のディスクを再生したその時から今日まで、冒頭に記しました通りのあり様です。

登場時には目にも入れてなかった人物が存在感を増していき、逆に重要人物と思っていた人々がバタバタと死んでいく様には目を見張りました。
もちろん、ショーン・ビーンだけは別です。出てきた瞬間からわかっていました、ショーン・ビーンですから*1
そして、物語が進むにつれ、男性陣がどんどん小物になり、女性陣の強さ逞しさが増していく姿は、現代に生きる女性として痛快です。
この手の物語では、女性は添え物で虐待される、もしくはやたらと特別視されるものですが、この物語の中で、彼女たちはその境遇に抵抗し、相手を叩きのめします。私は、大悪女サーセイにすら、拍手喝さいしたい思いです。

覚えきれないほど大勢の登場人物がいるのに、その誰もが複雑な内面を持っていて、出会い、別れ、影響しあう。その絡み合ったドラマを、時に小気味よく時に壮大に描き、観る側を飽きさることも迷子にすることもなく展開していく。
最高のドラマと呼ばれていますが、その言葉に相応しい作品です。

こんな素晴らしいドラマを作って下さり、心から感謝いたします。
そしてもう一度、私が『ゲーム・オブ・スローンズ』を侮っていたことを、心から謝罪いたします。

敬具

**********************************

拝啓

わが良き同僚へ

君がこのドラマを貸してくれた時、正直、最後まで見られるか自信がなかったよ。続き物は苦手だからね。

でも、この4年間、会社で苦楽を共にし、休職中も復職中の現在も支えてくれて、まるで海兵隊の戦友のような君だ。
そんな君が「しのぶさんの好きそうな、血がいっぱい出るやつだから、気晴らしにして」と、わざわざ帰省時に自宅から、単身赴任しているこの東京まで持って来てくれたのだから、無下にすることなど出来るわけがない。

だから見たよ、感想はすでに伝えたね。「面白過ぎる」「展開がすさまじすぎて心臓に悪い」って。
君は「俺はやったぜ」と言わんばかりに、満足げだったね。
後になって「ちょっと性的なシーンが多くて、家に置いてて息子が観ると気まずいんだよ」という裏事情も白状されたけど、まあ、それは気にしてないよ。

でも、君の息子はもう高校生じゃなかったか?
このドラマには、男女、男男、女女、色々な関係が出てくるから視野は広がると思うんだ。そして何より女性を侮ったり虐げることがどれだけ酷いことか、そして本気で怒らせたらどんな目に遭うのか、疑似体験するのに良いドラマなんじゃないかと思うんだけど。
もっとも、私には子供がいないし、自分自身は小学生で山田風太郎*2読んでいたような子供だったから、そのあたりの子育てや親の気持ちについてはよくわからない。

とにかく、君のおかげで楽しみが出来たから、復職期間をなんとか乗り切っているよ。
本当にありがとう。心から感謝しているよ。

でも、ひとつだけ、言わせてほしい。

どうして、最終章になるシーズン8だけ、持って来なかった?

いや、言い訳は聞いた。「重かったから」と聞いた。
私もそれは認める。オフィスから家まで持って帰る時、ほとんど電車とはいえ、重かった。
でも、想像しなかったのか?
シーズン7でおあずけされたら、私がどんな気持ちになるかって。

せめてシーズン6ならまだいい。何となく、登場人物が収まるところにおさまった形だったから。
だが、シーズン7はいけない。さあこれから大変だ!というその時に終わりなんだよ。

いや、リアルタイムで観ていた人たちは、あの後から長い期間、続きを待っていたのだろうから、ちょっとくらい待てと言うだろう。
だけど、私は君のおかげでシーズン1から7まで、一気に観たのだ。ここで止められるのはあまりに残酷ではないか。

君が次に帰省するのは、一週間は先だ。その時、シーズン8を持ってくると、君は言ったね。
Amazonではシーズン8も配信しているよ。ただし、プライムではなかったから、観るには金を払わなきゃいけない。
金を惜しむ気はない。だが、君は持ってくると約束してくれた。我が戦友である君は、約束を違えたことなどない。

だから私は、君を待つ。
ネッド・スタークのごとく、愚直に君の約束に誠実でいる。
その代わり、万万が一にでも忘れてきたなら、私のこの手で君の首を刎ねてやる。

敬具

 

TVシリーズの常識を覆し続けるHBO製作の海外TVドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」。長年にわたり世界じゅうのファンを魅了してきた本作は、HBOが1話につき製作費約1,000万ドルともいわれる巨額を投じ、ジョージ・R・R・マーティンのベストセラー⼩説「氷と炎の歌」の壮大な世界観を映像化した大人気シリーズ。
(ワーナー公式サイトより)

*1:とにかく死ぬ役が多い。死なないと、逆にびっくりする。

*2:娯楽小説の大家。忍者が出てくる忍法帖物でも有名で、エロと血まみれがたくさん

『バリー・シール/アメリカをはめた男』トム・クルーズのことが心配になる話

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私がトム・クルーズの映画をちゃんと観だしたのは90年代に入ってから。
それ以前はトムのにやけ面が大嫌いでした。実は今でも『トップガン』とかあまり好きではなく。
それが『ア・フュー・グッドメン』で演技力の高さに驚いて、以降はほぼ全作品観ています。ただ、年々観る動機が変わってきました。
今、トム・クルーズを好きか嫌いかと聞かれたら、答えは「好き」。だけど、彼の映画を見る理由は「好き」だからじゃなくて、「心配」だから。
だってこの人、映画観てあげないと死んじゃいそうじゃないですか。

トム・クルーズパイロットからCIAエージェントに転身し、麻薬の運び屋として暗躍した実在の人物バリー・シールを演じるクライムアクション。バリーの嘘のような人生がアクション、コメディ要素満載で描かれる。敏腕パイロットとして民間航空会社に勤務するバリー・シールのもとに、ある日CIAのエージェントがやってくる。CIAのスカウトを受けたバリーは、偵察機パイロットとしてCIAの極秘作戦に参加。作戦の過程で伝説的な麻薬王パブロ・エスコバルらと接触し、バリーは麻薬の運び屋としても天才的な才能を開花させる。エージェントとしてホワイトハウスやCIAの命令に従いながら、同時に違法な麻薬密輸ビジネスで数十億円の荒稼ぎをする破天荒な動きをするバリー。そんな彼にとんでもない危険が迫っていた……。監督は「オール・ユー・ニード・イズ・キル」に続き、クルーズとタッグを組むダグ・リーマン

2017年製作/115分/G/アメリ
原題:American Made
配給:東宝東和
(映画.comより)

この映画自体は、トムのモノローグで進む演出も古臭い映像もテンポも最高だし、CIAやアメリカ政府の呆れた二枚舌をガッツリ見せて社会風刺も効いている。
すごく面白い映画なんですが、観ている間、ずっと別なことを考えていました。

トム・クルーズの映画は、彼がどんな役をやろうともトム・クルーズにしかなりません、スターだから。トムは役を自分に寄せてしまうし、寄せられない役は(多分)やらない。
とはいえ、バリー・シールはいつも以上にトム・クルーズ自身にしかみえない。バリー・シールの、何かに駆り立てられるように生きている姿が完全にトムに被ってしまう。

バリー・シールは一操縦士から大金持ちになっていくけれど、彼自身はさほど金に執着はなく。明らかにアドレナリン・ジャンキーで、飛行機を操縦することとスリルを味わうことが、彼のアイデンティティーを保っているように見えます。
チャラいハイテンション男だけど、ビジネス(違法だけど)に対する勘は確か。だからCIAの仕事も、裏でやってる麻薬の運び屋稼業もどんどん大きくなり、大金を手にして操縦士も複数雇うようになったのに、やっぱり自分も飛んでいる。
普通なら金が入ったら人にやらせるようになるもんだろうに、どんなに危険なことだと分かっていても、自分でやる。

そういう人、いますよね? そう、トム・クルーズ

現役の映画スターの中でも、この人ほど「愛されたい」と思ってる人はいないんじゃないでしょうか。
彼は本当に映画が好きで映画制作が好きで、良い映画を作るためなら文字通り何でもする。私財も投入する。体もはる。命もかける。
最近では、コロナ対策に絡んで放送禁止用語満載でスタッフに怒鳴る音声が流出したり、コロナ対策完備したスタジオを建設したりしていますけど、それは全部、映画を作るため。

映画のためだと言う彼の言葉に、嘘はないと思う。でも根っこには「愛されたい」という底なしの渇望があるような気がします。
愛に飢えた青年が、映画に出て世界中に愛されることを知ったわけで、それは麻薬みたいなもんだったでしょう。
そこで調子に乗ったり役の幅を広げられなくてキャリアをしくじる若手は多いけど、頭の良い彼は、愛され続けるためには良い映画に出なきゃならないと考えた。この人の作品選びの目はかなり良い。
だから今でも第一線でスターをやっている。世界中で愛されている。

だけど、愛を外に求めている内は、心は満たされないものなんですよ。
何億もの人が映画を見てくれても、その愛はシャワーみたいなもんで、浴びても浴びても排水口に流れていくだけです。
埋まらない心を、彼は悪名高きサイエントロジーに求めて本人は満足しているつもりになっているけど、映画での彼を見る限り、多分心の穴は埋まっていない。トムの演技力は高いと思うけど、余裕の無さをいつも感じる。
愛されたい自分を認めてしまって、ヴァン・ダムのように自分を受け入れれば楽になるのに、向き合えないのか、それとも心の深淵では自分のことが嫌いなのかもしれない。

バリー・シールは、用済みになったら殺された。彼は、死ぬなら飛行機に乗って死にたかったんじゃないだろうか。
トムも、主演映画を誰も観てくれないようになって往年のスター扱いになるくらいなら、現役スターのままで撮影中に事故死した方がマシだと、心の奥底で思っていそうで、ちょっと怖い。
最近の体当たり路線を見ていると、あながち杞憂でもないと思う。

ところが困ったことに、トムから「愛されたい」という必死さがなくなったら、私は興味を失くす気がする。
パラドックスになるけど、トムの魅力は、純粋で貪欲でブラックホールのような「愛されたい」オーラにあるのだから。

仕方がないので、私はトム・クルーズを見続ける。はらはらしながら見続ける。トムが「愛されてる」と感じられるように。
それは、シャワーのように流れていくだけの愛だけど。

この映画を見ている間、ずっとそんなことを考えていた。

↓自分を受け入れたヴァン・ダムの話

 

『ホテル・アルテミス 犯罪者専門闇病院』私って映画見る目ないんかねと呆れる話(ネタバレなし)

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いまだヴァン・ダム映画をあさって観てるんですが、癒されてばかりなので内容がまとまらず(これはこれで映画の力のすごさ)。なので、ヴァン・ダム以外に観た他の映画の話を。

羊たちの沈黙』大好きな私なので、刷り込みのようにジョディ・フォスターも好きなんです。全部とは言いませんが、結構出演作は観てるつもりが、この映画は存在自体知らなかった。
彼女の主演にしては珍しく、日本ではビデオスルーだったようです。内容が『ジョン・ウィック』に出てくるホテル・コンティネンタル*1を連想させるので、そのあたりが微妙と判断されたのか、それともフォスター渾身の老人演技が売りにならないと思ったのかわかりませんが。
アメリカでも大きなヒットはせず、可もなく不可もなくという感じ。

オスカー女優ジョディ・フォスター主演による近未来クライムアクション。暴動が日常と化した近未来のロサンゼルス。高額な会費と引き換えに最新医療と身の安全が保障される会員制闇病院「ホテル・アルテミス」には、傷を負った犯罪者たちの訪問が後を絶たない。ある日、銀行強盗で致命傷を負った兄弟を受け入れたことから、ホテル・アルテミスは開業以来最悪の事態に見舞われる。共演に「ブラックパンサー」のスターリング・K・ブラウン、「キングスマン」のソフィア・ブテラ、「ジュラシック・パーク」シリーズのジェフ・ゴールドブラム。「アイアンマン3」の脚本家ドリュー・ピアースが監督・脚本を手がけた。

2018年製作/93分/イギリス・アメリカ合作
原題:Hotel Artemis
(映画.comより)

でも私、すごく面白かったんですよ。
キャラクターは濃いし役者もいい。ホテルの設定も面白い。ホテルという密室で、人物たちの交錯する思惑、というシチュエーションもいい。
なんと言っても、ジョディ・フォスターの演技が圧巻で惹き付けられっぱなし。さすがの貫禄です。
最後のシーンもカッコよかったなー。セリフの日本語訳は「キラキラにして」。CS放送で英語字幕がなく自信ないんですが、"Keep a Christmas Eve party"かなあ。分かる方いらっしゃったら、教えて下さい。

でも、観終わって「めちゃめちゃ、面白かった!」と思ってから、ふと、冷静になって気がついた。

主要キャラの背景や関係は、セリフでの説明すらほんの少しで不明瞭。後半に入ってからは、え、そんなに深い思い入れあったの? と言うくらい、突然ドラマが盛り上がる。
逆に、たいして重要キャラじゃないボスの末っ子は説明過剰。親父を病院に入れるだけなのに、あの自己陶酔的な親子の会話はなんなんだ。
そして出来事は唐突に起こり、唐突に終わる。特に、あの警官はいったい何のために出てきたの? 伏線にもなにもなってない。

えーっと、よく考えたら、なんじゃこりゃ?

脚本のせいか? いやでも、ショボい脚本でジョディが出るか?
あ、製作陣が本気でヒットさせる気満々のメンバーだ。だから人が集まったのか。
じゃあ編集で失敗したのか? どこのどいつだ編集は? あ、大した仕事してねーや。
やっぱり監督のドリュー・ピアースのせいか。自分で脚本も書いてるんだから、途中で気づけよ!

この映画でやりたいことはよくわかるんです。
しかもそれに、キャラクターと役者が見事に合ってるんですよ。わき役に至るまで、ほぼ全員が。でも物語がちぐはぐ。
この映画からは「もうこれ以上どうにもできないから、お願いだからわかってくれ!」という監督の声が聞こえてきそうです。
それに対して「うん、わかったよ!」と、私の対映画用セイフティネットが、無意識に応えてしまったらしい。

私のセイフティネットは、基本「ダメなとこもあるけど、ここがイイよね~」と意識して発動するのですが、時々無意識に発動してしまい、大絶賛した後からダメなやつ(大抵、人から冷静に指摘される)だと気づいて、自分で自分に呆れることがあります(でも好きな気持ちは変えない)*2
こういう時に、私は映画愛はあっても映画を見る目は大したことねーな、と思います。

だってさー、この布陣で楽しむなって方が無理じゃないですか!(開き直り)

心に傷を持っててちょっと病んでる、口の悪い老闇医者をジョディ・フォスター
その助手で自分は医療従事者だとやたら強調する、たぶん元はかなりヤバい系犯罪者の、デイヴ・バウティスタ。巨漢と小柄がバディというのが、画としてよくハマってる。
そして真っ赤なドレスでバトルする暗殺者に、ソフィア・ブテラ! 人殺し稼業がこんなに似合う役者もなかなかいない(褒め言葉)。
ドレスのスリットが深いのは、ファッションでもお色気でもなく、戦闘仕様なので騙されないように。

とどめに、不意打ちのように出てくる犯罪組織のボスでホテルのオーナーが、ジェフ・ゴールドブラム
登場シーンでの顔の見せ方は、「ほら!みんな大好きゴールドプラムだよ!」というあざとさ満載なんですが、これにヤられた自分が素直すぎて恥ずかしい。

それに、カメラが上手すぎる。
全体的にトーンが暗いんですが、要所要所に入る色が効いてるし、カメラの寄せかた引きかたが、とにかくキャラクターの心情を一番イイ姿で映すんだという気合いに満ちている。
この撮り方こそ、私にキャラクターの背景を深読みさせた原因なので(他責にする)撮影監督調べたら、『オールド・ボーイ』や『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』を撮った人、チョン・ジョンフンでした。そりゃ上手いわ。

私、以前やたら撮影監督にこだわって、撮影監督で映画追っかけてた時期があり、「脚本も監督も演技もダメでも、撮影監督が良ければ映画として成立する」というのを持論にしていました。
いまはさすがに、それだけじゃマズイだろと思ってますが、やっぱり画の見せ方がうまいと、他のアラをかなりカバーするので、とりあえず2時間最後まで見れちゃうんですよね。映画って、そもそも見せてなんぼのものですし。

ついでに美術スタッフも、関わった過去作品はSF、ホラー系でなかなかハイレベルでした(今回悔しくてスタッフ調べた)。
そりゃ騙されても仕方ないよね!(騙してない)

物語の機能不全を、役者と映像が全力で補ってるこの映画。後から思うと痛々しい出来なんですが、わりとこういう映画が好きな私です。
でもなー、これがビデオスルーなら、『二ツ星の料理人』こそビデオスルーでいいんじゃないの?
あ、人が殺されない映画を差別してるんじゃないからね!

↓セイフティネットの使い方例

*1:元殺し屋のキアヌ・リーヴスが飼い犬の復讐をする映画。暗殺者専門のホテルが出てくる

*2:顕著なのが、マーベルじゃない方の『アベンジャーズ』、ブルース・ウィリスの『ハドソン・ホーク』、ヒース・レジャーの『悪霊喰い』。私は好きなのよ……