前世戦士の映画日誌

前世が戦士らしい女が映画を観て色々吐き出します 生態日誌です

『グリム・ブラザーズ スノーホワイト』シガニー・ウィーバーはサム・ニールをどうしたかったのか

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2012年はおかしな年でした。なにせグリム童話の「白雪姫」を元にした映画が、2本も公開されたんですから(B級でもう1本あったらしい)。
1本は白雪姫がクリステン・スチュアートで、継母のシャーリーズ・セロン様とガチンコ対決する『スノーホワイト』。
もう1本は白雪姫がリリー・コリンズで、継母がジュリア・ロバーツの『白雪姫と鏡の女王』。こちらはなんと言っても、監督がインド産の鬼才ターセム・シンなので、とにかくビジュアルが素晴らしかった。
そして両方に共通しているのは、女性陣が自立していて逞しく、王子含め男性陣は添え物、というところ。
この辺、時代の変化を感じます。受け身のプリンセスは、用なしになりました。

でも実は、そんな時代を予感させる映画が、すでに90年代にあったんですよ。継母の存在感が大きく、父親や王子的存在はひたすら軽く、7人の小人は解釈を変え、白雪姫は最後に継母としっかり対峙する。
それがこれ、『グリム・ブラザーズ スノーホワイト』。アメリカではTV映画でしたが、日本では劇場公開されていたので、私、映画館で観ました。
だって、継母がシガニー・ウィーバーで、白雪姫の父親がサム・ニールなんだもの。

誰もが知っているグリム兄弟の名作童話「白雪姫」を、1812年に発表された原典に忠実に、その残酷さと狂気の世界を再現したファンタジー・ホラー。監督は「インターセプター」のマイケル・コーン。製作は「ターミナル・ベロシティ」のトム・エンゲルマン。撮影は「嵐が丘」(92)のマイク・サウソン、音楽は「ケーブルガイ」のジョン・オットマン、美術は「ハマースミスの6日間」のジェマ・ジャクソン。主演は「コピーキャット」のシガニー・ウィーヴァーと「あなたが寝てる間に…」のモニカ・キーナ。共演は「恋の闇 愛の光」のサム・ニール、「マイアミ・ラプソディー」のギル・ベロウズほか。

1997年製作/100分/アメリ
原題:Snow White
配給:ギャガ・コミュニケーションズ=ヒューマックス・ピクチャーズ
(映画.comより)

はい、前回の『N.Y.犯罪潜入捜査官』を観た勢いで、DVD引っ張り出してきちゃいました。
この映画でのサム・ニールは、打って変わって、後妻に翻弄されるだけの男なので、ファンとして面白みはないのよねー。
まあでもサム・ニールって、女性に翻弄されるばかりの役っていうのが結構あって、その辺は前回書いたセクシーさに欠けるところが影響しているかもしれません。寝取られ夫の役も多いし。

で、この映画でとにかく目立つのは、シガニー・ウィーバーの継母なんですね。
この継母、彼女の背景や内面がまったく説明されず、シガニー・ウィーバーという配役一本で納得してもらおうという、「ね、わかるでしょ」な役なんです。他のキャラは、それなりにわかるようになってるんですけどね。

でも、そんなこと、シガニー・ウィーバーが怖くて言えません。
もうね、シガニー劇場なんですよ。彼女が演じる継母の狂気が全てです。
ちょっと冷静になると、彼女が一人でくるくる回ってるだけって絵面ではあるんですが、迫力が……。
「そういうものなのよ、文句ある?」と言われてるような圧が、怖い。

元々、子供向けにソフトになった内容ではなく、グリム童話の原典にある残酷描写を描こうというコンセプトで作られた映画です。
彼女はそれをしっかり表現していて、過剰なまでに狂気の継母を演じています。
今でこそ、グリム童話は実は残酷だと、頭にインプットされているんですが、当時は結構ドン引きした記憶があります。久々に観ると、落ち着いて見られるというか、さほど驚かなくなっている自分がいました。
まあでも、それでもシガニー・ウィーバーは手が付けられない感じで、めちゃくちゃ怖いんですが。

特にですね、白雪姫の父親への仕打ちがひどいんですよ。これは、2012年の作品にはなかったと思います。
直接手を下してることを考えれば、白雪姫に対するものより、酷い。精を搾り取られたあげくに、十字架に括られて逆さづりですよ。

サム・ニールの出演を推したのはシガニー・ウィーバーだったと、パンフレットに書いてあったと記憶してますが(ちゃんと探して確認しろ)、役柄から考えて彼を推したのなら、彼女はサム・ニールを虐待してみたかったのかと邪推したくなるんですが、どうなんでしょう。
なんとなく、その方が面白いかな、と思う私のサム・ニール愛は、深すぎて水圧で歪んでます。

『N.Y.犯罪潜入捜査官』サム・ニールがボンド役のオーディションに落ちた理由がわかった件

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昨日『ゲーム・オブ・スローンズ』のシーズン7まで(こだわる)観終わった後、ふとAmazonを見ると、この映画のDVDが1枚だけ在庫がありとなったので即購入。着荷して即観ました。
サム・ニールのファンとロブ・ロウのファン以外、全く需要がない映画なんですが、私はそのサム・ニールが大好きなので、前々からDVDが欲しかった作品です。
最悪レンタル落ちの中古を覚悟してたんですが、まさかの新品で幸せです。
ちなみにこれ、正確にはTV映画。日本で言えば、土曜ワイド劇場よりは上かな、という感じ。

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いやー、予想通り、中途半端な出来で大満足です‼
……というのはTV映画だと知っていたから言える感想で、そうでなければ「はい⁉」となること必須。雑です、雑。
そのせいか誰も話題にしていないらしく、ネットで検索かけると検索結果に『N.Y.心霊捜査官』*1と混ざって出てくる始末。もちろん、これぽっちも関係もありません。

作品紹介にある「アクション」は無いも同然だし、DVDのパッケージにある「激突」も「生死」も「壮絶」もありません。ロブ・ロウ演じる刑事のマイクも、果たして腕利きかというと、正直者なだけじゃないの、という感じ。

そもそも、邦題にあるような「潜入捜査」はしてないんですよ。だからといって、原題の”Framed”(無実の罪をうけた、罠にはめられた)というのも微妙。
マイクの過去や終盤の状況を表してるんだろうけど、そこはドラマの中核じゃないから、タイトルにされてもねえ……。
邦題原題共に「なんか違う」という、ズレてる感がすごいです。

でもサム・ニールは良かった!
彼のうさん臭い眼力が最初から最後まで堪能できて、サムを観ているだけで楽しいんですよ!(誰にも響かない感想)
彼の一番の魅力は腹に一物ありそうな眼力なので、目つきが悪くて、ついでに裏表がある役を演じてくれてりゃ、私はそれで充分なのです。うふふふふ。

それに今回の役柄は、金持ちで趣味の良い贅沢男。
仕立ての良いスーツ、優雅にワイン、なーんて風情をサラっと出せるのも、サム・ニールの持ち味。影響されてスーツやワインを嗜むも慣れてないマイクの姿と、なんと違うことでしょう。
ノーブルで知的な雰囲気を、ナチュラルに醸し出せる役者が減った昨今ですが、やっぱりサム・ニールは出てるだけで違います。

正直、この話で彼が仕掛けてる罠なんて大したことじゃなく、ただただ警察やFBIがアホなだけなんですが、出てる役者の中でサム・ニールの格が違うから、なんか妙に納得してしまう。
……というのは、はい、ファンのひいき目です、すみません、ごめんなさい。

でもですね、ファンだからこそわかる、ダメなとこってのもあるんです。「あちゃー、これは違うわ」と思ったのが、女性を侍らせているシーン。
サム・ニール、エロが皆無。全然これっぽっちも見当たらない。

しかもこの役、妻と愛人と3Pするような男なんだけど、そんなエロいことするように全く見えない。
百歩譲って、妻と愛人がベッドいちゃついてるところをソファでワイン飲みながら見て興奮する、なんて性癖ならありかなー。
でもなー、なんだかなー。
ちがうなー。

そこで思い出したのが、サム・ニールティモシー・ダルトンと共に、四代目ジェームズ・ボンド役の候補だったって話です*2
サム・ニールだって、ノーブルでタキシードも似合うし、一筋縄ではいかない男は演じられる。マティーニだって似合うだろう。声も良いから、「ボンド、ジェームズ・ボンド」ってお約束のセリフもステキだろう。

でも、ボンドに一番必要な、セクシーさが無いから無理なんだよおおおお!
好みじゃないけど、私が製作陣でもティモシー・ダルトンにするわ、悪いけど。

などという、おかしなことを考察する余裕が十分にある映画でした。
長年の夢が叶って満足です。
ただし、もう一回観るかどうかは、神のみぞ知る。

www.amazon.co.jp

*1:エリック・バナ主演の、やたらと霊感が強い刑事の話。結構面白いです。

*2:『007 リビング・デイライツ』DVD特典にあるメイキングに、カメラテストの映像があるらしい(Wikipedia参照)。そのためだけに買おうかどうか、もう長いこと悩み中。そもそも、それを収録した版はまだ売っているんだろうか……

『ゲーム・オブ・スローンズ』関係者への謝罪、そして同僚への感謝と脅迫の手紙

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拝啓

ゲーム・オブ・スローンズの関係者各位

まずは皆さんに、心からのお詫びを言わせていただきます。
皆さんが心血を注いで作り上げた作品を、「そうは言ってもドラマでしょ」と、ナメてて本当に申し訳ありません。

この2週間弱でシーズン1から7まで、仕事と睡眠と最低限の家事以外のほとんどの時間を、この作品を観ることに使ってきました。もちろん、このブログの更新もしていません。
複雑な話なので、確認のために見返すことはあっても、観ること自体を止めることはできまなかったのです。

こんな面白いドラマは、ありません。
この壮大な世界と複雑で魅力的な人物たちを、ドラマで観たことなどありません。映画ですら、匹敵するものは少ないでしょう。
これほど素晴らしいものを作り上げた皆さんに、心からの敬意を表します。

確かに、日本での放送が始まった時、私はスターチャンネルに加入しておらず、観ることはできませんでした。
その後、Huluでの配信が始まりましたが、私はHuluには加入しておらず、観ることはありませんでした。TUTAYAでレンタルしようにも、とうの昔に退会しておりました。
が、しかし、Amazonで配信が始まった時、私には視聴可能な環境がありました。なのに、観ることはありませんでした。

この作品の世界観が苦手な訳ではありません。
そもそも私が学生時代に没頭していたのは、中世ヨーロッパ史です。『ゲーム・オブ・スローンズ』が模した世界のど真ん中です。
ましてや卒論は当時のキリスト教による異端審問がテーマです。第5~6シーズンの宗教がらみの展開は、ひさぶりにそのことを思い出しました。

ファンタジーも大好きです。『指輪物語』は中学生で読了し、映画化された時も、何度も観ています。
だからこそ、あの壮大な映画で描かれた世界に匹敵するものが、ドラマでできるわけがないと、思い込んでおりました。

何より私は「次週に続く」というタイプのドラマが、苦手なのです。私の観るドラマのほとんどが、1話完結の殺人事件物ばかり。
私の仕事は終わりのないタイプのもので、売り上げ目標達成とか、何かを作り上げた、という、やり遂げる喜びとは無縁です。
そのせいか、仕事が終わってみるドラマには「解決」を求めます。事件が解決すると、すっきりします。私は解決することが大好きなのです。

それに続き物はシーズン中に中だるみすることも多く、飽きてしまいます。
とりわけ、アメリカのドラマは人気があると延々シーズンを重ねていくこともあり、性格上、終わりの見えないストーリーが続くとハラハラを通り越して、イライラしてしまいます。

例外は『ウォーキング・デッド』で、放送時は毎週録画して観ていますが、かなりスローに展開していくので、実は結構内容をとばしながら観ています。誰が生きるか死ぬかが気になってやめられないだけで、某キャラクターが死亡したら、最終シーズンを待たずに観るのをやめるかもしれません。

失礼しました、他のドラマの話など。

とにかく、そんな私が『ゲーム・オブ・スローンズ』を観ることになったのは、復職中の私の気晴らしになるようにと、同僚がDVDを貸してくれたためです。
借りたからには観て感想のひとつも言わねばならぬと、1枚目のディスクを再生したその時から今日まで、冒頭に記しました通りのあり様です。

登場時には目にも入れてなかった人物が存在感を増していき、逆に重要人物と思っていた人々がバタバタと死んでいく様には目を見張りました。
もちろん、ショーン・ビーンだけは別です。出てきた瞬間からわかっていました、ショーン・ビーンですから*1
そして、物語が進むにつれ、男性陣がどんどん小物になり、女性陣の強さ逞しさが増していく姿は、現代に生きる女性として痛快です。
この手の物語では、女性は添え物で虐待される、もしくはやたらと特別視されるものですが、この物語の中で、彼女たちはその境遇に抵抗し、相手を叩きのめします。私は、大悪女サーセイにすら、拍手喝さいしたい思いです。

覚えきれないほど大勢の登場人物がいるのに、その誰もが複雑な内面を持っていて、出会い、別れ、影響しあう。その絡み合ったドラマを、時に小気味よく時に壮大に描き、観る側を飽きさることも迷子にすることもなく展開していく。
最高のドラマと呼ばれていますが、その言葉に相応しい作品です。

こんな素晴らしいドラマを作って下さり、心から感謝いたします。
そしてもう一度、私が『ゲーム・オブ・スローンズ』を侮っていたことを、心から謝罪いたします。

敬具

**********************************

拝啓

わが良き同僚へ

君がこのドラマを貸してくれた時、正直、最後まで見られるか自信がなかったよ。続き物は苦手だからね。

でも、この4年間、会社で苦楽を共にし、休職中も復職中の現在も支えてくれて、まるで海兵隊の戦友のような君だ。
そんな君が「しのぶさんの好きそうな、血がいっぱい出るやつだから、気晴らしにして」と、わざわざ帰省時に自宅から、単身赴任しているこの東京まで持って来てくれたのだから、無下にすることなど出来るわけがない。

だから見たよ、感想はすでに伝えたね。「面白過ぎる」「展開がすさまじすぎて心臓に悪い」って。
君は「俺はやったぜ」と言わんばかりに、満足げだったね。
後になって「ちょっと性的なシーンが多くて、家に置いてて息子が観ると気まずいんだよ」という裏事情も白状されたけど、まあ、それは気にしてないよ。

でも、君の息子はもう高校生じゃなかったか?
このドラマには、男女、男男、女女、色々な関係が出てくるから視野は広がると思うんだ。そして何より女性を侮ったり虐げることがどれだけ酷いことか、そして本気で怒らせたらどんな目に遭うのか、疑似体験するのに良いドラマなんじゃないかと思うんだけど。
もっとも、私には子供がいないし、自分自身は小学生で山田風太郎*2読んでいたような子供だったから、そのあたりの子育てや親の気持ちについてはよくわからない。

とにかく、君のおかげで楽しみが出来たから、復職期間をなんとか乗り切っているよ。
本当にありがとう。心から感謝しているよ。

でも、ひとつだけ、言わせてほしい。

どうして、最終章になるシーズン8だけ、持って来なかった?

いや、言い訳は聞いた。「重かったから」と聞いた。
私もそれは認める。オフィスから家まで持って帰る時、ほとんど電車とはいえ、重かった。
でも、想像しなかったのか?
シーズン7でおあずけされたら、私がどんな気持ちになるかって。

せめてシーズン6ならまだいい。何となく、登場人物が収まるところにおさまった形だったから。
だが、シーズン7はいけない。さあこれから大変だ!というその時に終わりなんだよ。

いや、リアルタイムで観ていた人たちは、あの後から長い期間、続きを待っていたのだろうから、ちょっとくらい待てと言うだろう。
だけど、私は君のおかげでシーズン1から7まで、一気に観たのだ。ここで止められるのはあまりに残酷ではないか。

君が次に帰省するのは、一週間は先だ。その時、シーズン8を持ってくると、君は言ったね。
Amazonではシーズン8も配信しているよ。ただし、プライムではなかったから、観るには金を払わなきゃいけない。
金を惜しむ気はない。だが、君は持ってくると約束してくれた。我が戦友である君は、約束を違えたことなどない。

だから私は、君を待つ。
ネッド・スタークのごとく、愚直に君の約束に誠実でいる。
その代わり、万万が一にでも忘れてきたなら、私のこの手で君の首を刎ねてやる。

敬具

 

TVシリーズの常識を覆し続けるHBO製作の海外TVドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」。長年にわたり世界じゅうのファンを魅了してきた本作は、HBOが1話につき製作費約1,000万ドルともいわれる巨額を投じ、ジョージ・R・R・マーティンのベストセラー⼩説「氷と炎の歌」の壮大な世界観を映像化した大人気シリーズ。
(ワーナー公式サイトより)

*1:とにかく死ぬ役が多い。死なないと、逆にびっくりする。

*2:娯楽小説の大家。忍者が出てくる忍法帖物でも有名で、エロと血まみれがたくさん

『バリー・シール/アメリカをはめた男』トム・クルーズのことが心配になる話

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私がトム・クルーズの映画をちゃんと観だしたのは90年代に入ってから。
それ以前はトムのにやけ面が大嫌いでした。実は今でも『トップガン』とかあまり好きではなく。
それが『ア・フュー・グッドメン』で演技力の高さに驚いて、以降はほぼ全作品観ています。ただ、年々観る動機が変わってきました。
今、トム・クルーズを好きか嫌いかと聞かれたら、答えは「好き」。だけど、彼の映画を見る理由は「好き」だからじゃなくて、「心配」だから。
だってこの人、映画観てあげないと死んじゃいそうじゃないですか。

トム・クルーズパイロットからCIAエージェントに転身し、麻薬の運び屋として暗躍した実在の人物バリー・シールを演じるクライムアクション。バリーの嘘のような人生がアクション、コメディ要素満載で描かれる。敏腕パイロットとして民間航空会社に勤務するバリー・シールのもとに、ある日CIAのエージェントがやってくる。CIAのスカウトを受けたバリーは、偵察機パイロットとしてCIAの極秘作戦に参加。作戦の過程で伝説的な麻薬王パブロ・エスコバルらと接触し、バリーは麻薬の運び屋としても天才的な才能を開花させる。エージェントとしてホワイトハウスやCIAの命令に従いながら、同時に違法な麻薬密輸ビジネスで数十億円の荒稼ぎをする破天荒な動きをするバリー。そんな彼にとんでもない危険が迫っていた……。監督は「オール・ユー・ニード・イズ・キル」に続き、クルーズとタッグを組むダグ・リーマン

2017年製作/115分/G/アメリ
原題:American Made
配給:東宝東和
(映画.comより)

この映画自体は、トムのモノローグで進む演出も古臭い映像もテンポも最高だし、CIAやアメリカ政府の呆れた二枚舌をガッツリ見せて社会風刺も効いている。
すごく面白い映画なんですが、観ている間、ずっと別なことを考えていました。

トム・クルーズの映画は、彼がどんな役をやろうともトム・クルーズにしかなりません、スターだから。トムは役を自分に寄せてしまうし、寄せられない役は(多分)やらない。
とはいえ、バリー・シールはいつも以上にトム・クルーズ自身にしかみえない。バリー・シールの、何かに駆り立てられるように生きている姿が完全にトムに被ってしまう。

バリー・シールは一操縦士から大金持ちになっていくけれど、彼自身はさほど金に執着はなく。明らかにアドレナリン・ジャンキーで、飛行機を操縦することとスリルを味わうことが、彼のアイデンティティーを保っているように見えます。
チャラいハイテンション男だけど、ビジネス(違法だけど)に対する勘は確か。だからCIAの仕事も、裏でやってる麻薬の運び屋稼業もどんどん大きくなり、大金を手にして操縦士も複数雇うようになったのに、やっぱり自分も飛んでいる。
普通なら金が入ったら人にやらせるようになるもんだろうに、どんなに危険なことだと分かっていても、自分でやる。

そういう人、いますよね? そう、トム・クルーズ

現役の映画スターの中でも、この人ほど「愛されたい」と思ってる人はいないんじゃないでしょうか。
彼は本当に映画が好きで映画制作が好きで、良い映画を作るためなら文字通り何でもする。私財も投入する。体もはる。命もかける。
最近では、コロナ対策に絡んで放送禁止用語満載でスタッフに怒鳴る音声が流出したり、コロナ対策完備したスタジオを建設したりしていますけど、それは全部、映画を作るため。

映画のためだと言う彼の言葉に、嘘はないと思う。でも根っこには「愛されたい」という底なしの渇望があるような気がします。
愛に飢えた青年が、映画に出て世界中に愛されることを知ったわけで、それは麻薬みたいなもんだったでしょう。
そこで調子に乗ったり役の幅を広げられなくてキャリアをしくじる若手は多いけど、頭の良い彼は、愛され続けるためには良い映画に出なきゃならないと考えた。この人の作品選びの目はかなり良い。
だから今でも第一線でスターをやっている。世界中で愛されている。

だけど、愛を外に求めている内は、心は満たされないものなんですよ。
何億もの人が映画を見てくれても、その愛はシャワーみたいなもんで、浴びても浴びても排水口に流れていくだけです。
埋まらない心を、彼は悪名高きサイエントロジーに求めて本人は満足しているつもりになっているけど、映画での彼を見る限り、多分心の穴は埋まっていない。トムの演技力は高いと思うけど、余裕の無さをいつも感じる。
愛されたい自分を認めてしまって、ヴァン・ダムのように自分を受け入れれば楽になるのに、向き合えないのか、それとも心の深淵では自分のことが嫌いなのかもしれない。

バリー・シールは、用済みになったら殺された。彼は、死ぬなら飛行機に乗って死にたかったんじゃないだろうか。
トムも、主演映画を誰も観てくれないようになって往年のスター扱いになるくらいなら、現役スターのままで撮影中に事故死した方がマシだと、心の奥底で思っていそうで、ちょっと怖い。
最近の体当たり路線を見ていると、あながち杞憂でもないと思う。

ところが困ったことに、トムから「愛されたい」という必死さがなくなったら、私は興味を失くす気がする。
パラドックスになるけど、トムの魅力は、純粋で貪欲でブラックホールのような「愛されたい」オーラにあるのだから。

仕方がないので、私はトム・クルーズを見続ける。はらはらしながら見続ける。トムが「愛されてる」と感じられるように。
それは、シャワーのように流れていくだけの愛だけど。

この映画を見ている間、ずっとそんなことを考えていた。

↓自分を受け入れたヴァン・ダムの話

 

『ホテル・アルテミス 犯罪者専門闇病院』私って映画見る目ないんかねと呆れる話(ネタバレなし)

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いまだヴァン・ダム映画をあさって観てるんですが、癒されてばかりなので内容がまとまらず(これはこれで映画の力のすごさ)。なので、ヴァン・ダム以外に観た他の映画の話を。

羊たちの沈黙』大好きな私なので、刷り込みのようにジョディ・フォスターも好きなんです。全部とは言いませんが、結構出演作は観てるつもりが、この映画は存在自体知らなかった。
彼女の主演にしては珍しく、日本ではビデオスルーだったようです。内容が『ジョン・ウィック』に出てくるホテル・コンティネンタル*1を連想させるので、そのあたりが微妙と判断されたのか、それともフォスター渾身の老人演技が売りにならないと思ったのかわかりませんが。
アメリカでも大きなヒットはせず、可もなく不可もなくという感じ。

オスカー女優ジョディ・フォスター主演による近未来クライムアクション。暴動が日常と化した近未来のロサンゼルス。高額な会費と引き換えに最新医療と身の安全が保障される会員制闇病院「ホテル・アルテミス」には、傷を負った犯罪者たちの訪問が後を絶たない。ある日、銀行強盗で致命傷を負った兄弟を受け入れたことから、ホテル・アルテミスは開業以来最悪の事態に見舞われる。共演に「ブラックパンサー」のスターリング・K・ブラウン、「キングスマン」のソフィア・ブテラ、「ジュラシック・パーク」シリーズのジェフ・ゴールドブラム。「アイアンマン3」の脚本家ドリュー・ピアースが監督・脚本を手がけた。

2018年製作/93分/イギリス・アメリカ合作
原題:Hotel Artemis
(映画.comより)

でも私、すごく面白かったんですよ。
キャラクターは濃いし役者もいい。ホテルの設定も面白い。ホテルという密室で、人物たちの交錯する思惑、というシチュエーションもいい。
なんと言っても、ジョディ・フォスターの演技が圧巻で惹き付けられっぱなし。さすがの貫禄です。
最後のシーンもカッコよかったなー。セリフの日本語訳は「キラキラにして」。CS放送で英語字幕がなく自信ないんですが、"Keep a Christmas Eve party"かなあ。分かる方いらっしゃったら、教えて下さい。

でも、観終わって「めちゃめちゃ、面白かった!」と思ってから、ふと、冷静になって気がついた。

主要キャラの背景や関係は、セリフでの説明すらほんの少しで不明瞭。後半に入ってからは、え、そんなに深い思い入れあったの? と言うくらい、突然ドラマが盛り上がる。
逆に、たいして重要キャラじゃないボスの末っ子は説明過剰。親父を病院に入れるだけなのに、あの自己陶酔的な親子の会話はなんなんだ。
そして出来事は唐突に起こり、唐突に終わる。特に、あの警官はいったい何のために出てきたの? 伏線にもなにもなってない。

えーっと、よく考えたら、なんじゃこりゃ?

脚本のせいか? いやでも、ショボい脚本でジョディが出るか?
あ、製作陣が本気でヒットさせる気満々のメンバーだ。だから人が集まったのか。
じゃあ編集で失敗したのか? どこのどいつだ編集は? あ、大した仕事してねーや。
やっぱり監督のドリュー・ピアースのせいか。自分で脚本も書いてるんだから、途中で気づけよ!

この映画でやりたいことはよくわかるんです。
しかもそれに、キャラクターと役者が見事に合ってるんですよ。わき役に至るまで、ほぼ全員が。でも物語がちぐはぐ。
この映画からは「もうこれ以上どうにもできないから、お願いだからわかってくれ!」という監督の声が聞こえてきそうです。
それに対して「うん、わかったよ!」と、私の対映画用セイフティネットが、無意識に応えてしまったらしい。

私のセイフティネットは、基本「ダメなとこもあるけど、ここがイイよね~」と意識して発動するのですが、時々無意識に発動してしまい、大絶賛した後からダメなやつ(大抵、人から冷静に指摘される)だと気づいて、自分で自分に呆れることがあります(でも好きな気持ちは変えない)*2
こういう時に、私は映画愛はあっても映画を見る目は大したことねーな、と思います。

だってさー、この布陣で楽しむなって方が無理じゃないですか!(開き直り)

心に傷を持っててちょっと病んでる、口の悪い老闇医者をジョディ・フォスター
その助手で自分は医療従事者だとやたら強調する、たぶん元はかなりヤバい系犯罪者の、デイヴ・バウティスタ。巨漢と小柄がバディというのが、画としてよくハマってる。
そして真っ赤なドレスでバトルする暗殺者に、ソフィア・ブテラ! 人殺し稼業がこんなに似合う役者もなかなかいない(褒め言葉)。
ドレスのスリットが深いのは、ファッションでもお色気でもなく、戦闘仕様なので騙されないように。

とどめに、不意打ちのように出てくる犯罪組織のボスでホテルのオーナーが、ジェフ・ゴールドブラム
登場シーンでの顔の見せ方は、「ほら!みんな大好きゴールドプラムだよ!」というあざとさ満載なんですが、これにヤられた自分が素直すぎて恥ずかしい。

それに、カメラが上手すぎる。
全体的にトーンが暗いんですが、要所要所に入る色が効いてるし、カメラの寄せかた引きかたが、とにかくキャラクターの心情を一番イイ姿で映すんだという気合いに満ちている。
この撮り方こそ、私にキャラクターの背景を深読みさせた原因なので(他責にする)撮影監督調べたら、『オールド・ボーイ』や『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』を撮った人、チョン・ジョンフンでした。そりゃ上手いわ。

私、以前やたら撮影監督にこだわって、撮影監督で映画追っかけてた時期があり、「脚本も監督も演技もダメでも、撮影監督が良ければ映画として成立する」というのを持論にしていました。
いまはさすがに、それだけじゃマズイだろと思ってますが、やっぱり画の見せ方がうまいと、他のアラをかなりカバーするので、とりあえず2時間最後まで見れちゃうんですよね。映画って、そもそも見せてなんぼのものですし。

ついでに美術スタッフも、関わった過去作品はSF、ホラー系でなかなかハイレベルでした(今回悔しくてスタッフ調べた)。
そりゃ騙されても仕方ないよね!(騙してない)

物語の機能不全を、役者と映像が全力で補ってるこの映画。後から思うと痛々しい出来なんですが、わりとこういう映画が好きな私です。
でもなー、これがビデオスルーなら、『二ツ星の料理人』こそビデオスルーでいいんじゃないの?
あ、人が殺されない映画を差別してるんじゃないからね!

↓セイフティネットの使い方例

*1:元殺し屋のキアヌ・リーヴスが飼い犬の復讐をする映画。暗殺者専門のホテルが出てくる

*2:顕著なのが、マーベルじゃない方の『アベンジャーズ』、ブルース・ウィリスの『ハドソン・ホーク』、ヒース・レジャーの『悪霊喰い』。私は好きなのよ……

『タイムコップ』何度見ても美しすぎる開脚しか思い出せない映画

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『ジャン=クロード・ヴァン・ジョンソン』でさんざんネタにされた『タイムコップ』。あれだけプッシュされたらねー、観たくなるのは仕方がないよねー(自分に言い訳)。

それに、最近読んでいるジェームズ・キャメロンの『SF映画術』)*1の中ではタイムワープで一章丸ごと使ってるんですが、『ルーパー』*2は出てくるのに、『タイムコップ』は出てこない。TV版でもただの1カットもない(3回見直した)。
『ジャン=クロード・ヴァン・ジョンソン』を製作したリドリー・スコットもキャメロンと対談してるけど、ドラマの中で散々『ルーパー』と『タイムコップ』をネタにしているのに、『タイムコップ』の話は出ない!
もう一度言う、『ルーパー』は出てくるのに『タイムコップ』の話が出ない!(そりゃそうだろ)

この映画を観て以来、キッチンを見ると、床からジャンプして開脚で体を支えられるか、ついサイズ感を見てしまう癖があります。
実家はOK、私の家もOK、でも姉の家はNG。姉の家で床に水がこぼれて、5万ボルトの電流流されたらどうしよう。
まあ私には180度開脚なんて出来ないから、普通に調理台に上がればいいだけなんですが。
いや、待て。
そもそも、なぜ私は5万ボルトの電流を流された場合のリスク管理を考えるのか?

キッチン開脚シーンからの連想が止まらないんですが、なぜかというと、『タイムコップ』って何度見ても、このキッチン開脚(と、冒頭のひったくりを開脚で止める)シーン以外、すぐ忘れてしまうからなんです。

ヴァン・ダム映画の中では有名で、話題にも上る(??)作品なんですが、本当によく忘れます。観た回数も多い方なのに。
なので、今回、またキッチンのシーン以外を忘れる前に考えてみることにしてみました。

この映画、ヴァン・ダムが演じる必要性ゼロなんですよ。

ヴァン・ダムが演じるマックスは、私の観てきたヴァン・ダム映画の中でも、一二を争うほど人間性が安定してます。もしそういう安定している役がほかにもあったら、私は多分覚えてません(ごめんなさい)。
妻には愛されてるし、彼女が殺された後も、ちょっと寂し気な雰囲気はありつつも、周りの人間関係も良好だし、普通に仕事も出来ていて優秀。
そういう役って、もっと直球の二枚目役者でいいじゃないですか、別に。

そういう役をヴァン・ダムが演じても、なんというか、その、あの、大根……いや、似合わないんですよ。
だから、アクションと開脚以外が、印象に残らない。
いえ、正確に言います。映画としてはそこそこ面白いけど、ヴァン・ダムが微妙。

このころのヴァン・ダムは二枚目アクションスターで売っていて(そういや似たような人のこと書いたな)、いかにも二枚目的な役柄だったのがこの作品。

でもさー、確かに顔も姿もイイんだけど、メンタルや生活が安定しているヴァン・ダムなんて、ただの美しい彫像でしかない。
だから、キッチン開脚やひったくり犯を止めるシーンだけが印象に残る。これは、ヴァン・ダムのためのシーンだから、観ているこちらも「おおっ!ヴァン・ダム!」と思っワクワクするんですよね。

マンネリだろうと何だろうと、ヴァン・ダムはメンタルに打撃をこうむってる役がやっぱり一番似合う。
妻を殺された後、やさぐれてアル中で喧嘩っ早くて取り扱い注意のレッテル貼られた一匹狼の警官になっててくれたら、かなり燃えたしラストで泣くぐらいしてたと思います。

それはそれとして、若いだけあって、このころの開脚の美しさは格別です。
軽やかです。
そして静止した姿がまた、美しいです。 
だからきっと私は、また、開脚シーン以外の全部を忘れてしまうんだと思います。

sinok.hatenablog.com

*1:SF映画術 ジェームズ・キャメロンと6人の巨匠が語るサイエンス・フィクション創作講座 | ジェームズ・キャメロン | 映画 | Kindleストア | Amazon

*2:ジョゼフ・ゴードン=レヴィットとブルース・ウィリスのタイムワープもの。ゴードン=レヴィットがウィリスの若いころを演じてるんですが、特殊メイクはもちろん、喋り方や動き方まであまりの完コピぶりに目を奪われて、話に集中できない

『ジャン=クロード・ヴァン・ジョンソン』誰も愛してくれないと思ったらヴァン・ダムを見ようという話

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復職三週目で、脳が煮えているどころか胃痛まで起こしてしまい、ホントに復職大丈夫かよと思う今日この頃です。
その一方で、ヴァン・ダム熱というか、ヴァン・ダムにどうも癒しを求めているらしく、Amazonでいくつか円盤を買ってしまい、それすら待ちきれないのでこうなったら『その男ヴァン・ダム』*1でも観るかと思っていたら、AmazonPrimeで見つけたのがこれ。
正確には映画ではなく1話30分×6話のミニシリーズ、AmazonPrime のオリジナル作品になります。

もしもあの映画スター、ジャン=クロード・ヴァン・ダムが実はシークレット・エージェントだと言ったら信じてもらえるだろうか?彼の映画界での活躍はすべて裏の仕事の隠れ蓑だと言ったらどうだろう?信じられない?だとしたら赤っ恥だ。このシリーズはそんな彼の裏の顔の物語だからだ。
(AmazonPrime Videoより)

 

 おそらくセルフパロディ物を2度も作ったのは、ヴァン・ダムぐらいじゃないでしょうか。
ヴァン・ダムはもはやアクション俳優というだけでなく、自分自身を「ジャン=クロード・ヴァン・ダム」というコンテンツに仕上げました。 

しかしまあ、クレジットをみて驚いたのなんのって。
ヴァン・ダム本人がエグゼクティブ・プロデューサーなのは想定内でしたが、何を血迷ったのか、そこには、名匠リドリー・スコットの名もあったのです。
つまり、このドラマはスコット・フリー・プロダクション*2が製作しているわけで。そのためか、作り自体はちゃちではなく、場面場面を切り取ってみれば、むしろ普段のヴァン・ダム映画よりクオリティは高いかもしれない。
とはいえ、こんな企画に一体誰がGOサインを出したのか。
アマプラのサイトには、シーズン1とちっちゃく書かれてますが、もちろんシリーズ化は打ち切りだ!

セルフパロディが散りばめられた作品なので、過去のヴァン・ダム作品をよく知らない人が観ると、面白がるポイントがよくわからないかもしれません。
いや正直、熱心なヴァン・ダムファンの皆さんに比べたら、私のヴァン・ダム愛なぞ大したことはないので、観て全ての元ネタがわかると言うほどではないんです。
でも、ありがたいことに『タイム・コップ』*3ネタが中心なので嬉しかった。だって私、封切り日に観に行ったんだもーん(愛の浅さを年季でカバーしようという、さもしいマウント)。

ヴァン・ダムのセルフ・パロディは、自分の出演作どころか、実人生を丸ごとパロディにしているところがなかなかエグイ。
『その男ヴァン・ダム』でも、映画で描かれていた00年代の人気低迷はもちろん本当だし、私生活のゴタゴタも事実に基づいていたようで。
この時のヴァン・ダムはちょっと痛々しくて、観てるこっちも泣けてきます。

ただ、今思えば、あの頃の私はヴァン・ダムに対して上から目線だったんですよね。だって「ヴァン・ダムかわいそう、頑張れ!」って泣いてたんだから。
でも『ジャン=クロード・ヴァン・ジョンソン』でのヴァン・ダムは、なんだか楽しそうだ。
今の自分と見比べて、羨ましくなるくらい、楽しそう。

『その男、ヴァン・ダム』もそうなんですが、『ジャン=クロード・ヴァン・ジョンソン』のヴァン・ダムは、自信を失って誰にも愛されない自分に嫌気がさしてます。
そして色々事件を通して(そこは書かんのか!?)、彼は自分を見つめなおし、自信を取り戻して「自分で自分を愛する男」になる、というもの。

これ、結構すごいことだと思います。
誰かの愛や友情のおかげで、立ち直ったり自信を取り戻すんじゃないんですよ。あくまで自分で内観して、自分を取り戻す。
『ジャン=クロード・ヴァン・ジョンソン』で起きてる事件はもちろん解決するんですが、ヴァン・ダムの自信回復は、あくまで彼の心の中で行われています。事件解決=自信回復じゃない(ニアではあるけど)。
いやもう、ストレートに作ってますからね。
ヴァン・ダムのインナーチャイルドと、今の彼との邂逅シーンは、精神分析やスピリチュアルで言われていることを映像化したらこれじゃないのっていうくらい、直球ど真ん中です。

私たちは誰だってそうですが、特に、他者に観てもらって成り立つ職業でスターになろうなんて人の中には、心の根っこに過剰なまでの「誰かに愛されたい」願望があるんじゃないかと思ってます(個人的偏見ですが、トム・クルーズはその最たるものだと思う)。
この「愛されたい」は「評価されたい」とも似ていて、愛されることで自己肯定感を得ようとしているんですよね。

でも自己肯定感って、愛を「誰か」という外に求めている間は、なかなか得られないんですよ。「愛されなくなった」と思ったとたんに、簡単に崩れてしまうから。だから愛は、まず自分で自分に向けてあげないといけない。
でもそうなるまでには、自分の深い認めたくない部分をゴリゴリ掘り起こす羽目になるのでかなりキツイし、その状態を社会生活の中で保つのも大変です(経験者、というか真っ最中)。

でも、ヴァン・ダムってゴタゴタした2000年代を経験して、「愛されたい」から「自分はこれでいいんだ」「自分で自分を愛せばいいんだ」に、マインドチェンジできた人なんじゃないかと思います
少なくとも、そうあろうとしている気がする。
微妙な知名度、微妙な出演作、褒められる(?)のは昔の作品ばかり。
でも、それがなんだって言うんだろう?

ヴァン・ダムは、たぶん、自分のことが大好きなんですよ。
昔の、ナルシズム的な自分大好き、ではなく。自分の良いところも悪いところも、丸ごと好きなんだと思います。
だから、観ていて、作品の出来はともかく(しつこい)、ヴァン・ダムの姿は悪い気がしないんですよね。辛そうじゃないというか、自然体(??)というか。 

こんなヴァン・ダムは、たぶん世界中の誰もが知ってて皆がみてる大作で主演なんかできないけど、一人の人間としては幸せそうだ。
最終話のヴァン・ダムの笑顔はステキです。

やあ!
俺はジャン=クロード・ヴァン・ヴァレンバーグ*4、よろしく!

そして、そういう人は、なぜか必ず誰かに愛されてしまうのだ。

その内の一人が、ここにいる(浅いけどね!)。

www.amazon.co.jp

 

*1:2008年に故郷ベルギーでヴァン・ダムが製作した、自分の実人生をセルフ・パロディにした自虐映画。監督はヴァン・ダムの大ファンで、コメディと思って油断してたら、愛しか感じなかった

*2:リドリー・スコットの制作会社。名作多数

*3:ヴァン・ダムが鼻高々だった1990年代のSF映画。タイムワープを悪用する奴を捕まえる警官役。ツッコみどころ満載

*4:ヴァン・ダムの本名はジャン=クロード・カミーユ・フランソワ・ヴァン・ヴァレンバーグ。ドラマと違って、お母さまは健在です